映画感想|『急に具合が悪くなる』が描くリアルな介護の負のループと、教育にも通じる「ユマニチュード」の視点

Movie

こんにちは。今回は、映画『急に具合が悪くなる』の感想をお届けします。

私は原作の単行本を未読の状態で鑑賞したため、あくまで「一本の映画作品」としての感想になりますが、これが想像以上に深く、見応えのある大傑作でした。

最近見たおすすめ映画レビュー👉️ 映画感想「未来」|“子供が泣かない世の中に”——原作の記憶を塗り替えるほど揺さぶられた体験

最初は静かなトーンで始まる作品ですが、中盤から心地よい緊張感が漂い始め、後半は怒涛の展開へ。映像美に感動しつつも、現代社会が抱える問題や人間関係の本質について深く考えさせられる、素晴らしい映画体験となりました。

映画『急に具合が悪くなる』90秒本予告

1. 「パリから京都へ」:知っているはずの日本の景色に一番感動した

この映画を語る上で、まず触れたいのが「映像(景色)の美しさ」です。

前半の舞台はパリ。マリールー(ヴィルジニー・エフィラ)と真理(岡本多緒)が出会うパリの街並みがとにかくお洒落で美しく、「綺麗だなぁ」とうっとりしながら画面を眺めていました。しかし物語が動き、舞台が真理の故郷である「京都」に移った瞬間、そのビジュアルとしての視界の広がりと美しさに、完全に心を奪われてしまいました。

描かれるのは、観光地としての京都ではなく、郊外の山並みや豊かな自然。そして、静かに響く虫の鳴き声。海外の街並みに憧れを抱きがちですが、画面を通して客観的に日本の風景を見たときに、「日本の風景って、こんなに美しかったんだ」と、知っているはずの景色に一番感動してしまいました。この視覚的な対比だけでも、映画館で観る価値があります。

2. 早すぎるタイトル回収がもたらす緊張感と、圧倒的な演技

映画のタイトル『急に具合が悪くなる』。このタイトル回収は、予想よりもかなり早い段階で起こります。普通なら「ここがクライマックスかな?」と思うような出来事が序盤に起きることで、かえって物語全体にピリッとした緊張感がもたらされ、最後まで目が離せなくなります。

そして、その緊張感を支える役者陣の演技が本当に素晴らしい。特に役者である清宮吾朗(長塚京三)と孫の智樹(黒崎煌代)の演技は圧倒的で、人間味とリアリティに満ち溢れていました。

作中での見どころの一つが、マリールーと真理の関係性です。二人のコミュニケーションの描き方が、物語が進むにつれて少し「百合(女性同士の恋愛一歩手前のような親密さ)」っぽくなっていくのが印象的でした(これは原作通りなのか、男性監督による演出的なバイアスなのかは、少し気になるところではありましたが……!)。とはいえ、二人のグラデーションのように変化していく関係性は非常に魅力的です。

3. リアルすぎる介護施設の実情と、見事な結末

作中で描かれる介護施設のシーンは、フランスが舞台であるにもかかわらず、驚くほどのリアリティと既視感(日本社会への共通点)がありました。

  • 低賃金でハードな労働のため、職員が定着しない
  • 国から補助金をもらう必要に迫られる
  • 補助金を得るために、さらに手のかかる重度の患者を受け入れる
  • 重度患者への対応のため、さらに職員を増やす必要が出て現場が疲弊する

この「負のループ」の実情が、綺麗事抜きでリアルに描かれています。「この重い介護の問題に対して、映画はどう答えを出すんだろう?」と少しハラハラしながら観ていました。

しかし、後半にはその懸念を吹き飛ばすほどの盛り上がりが待っています。介護施設の老人たち、そこで働く職員たちの人間関係、マリールーと真理、吾朗と智樹など、登場人物全員の見せ場が一気に押し寄せるような怒涛の展開となり、エンターテインメントとして非常に見応えのある結末へと見事に落とし込まれていました。

(※途中、資本主義についての解説が入るシーンがあり、内容や語られる思い自体にはとても共感できたのですが、映画全体の中ではやや説明的で浮いているようにも感じられました。「都市と外部」「正常と狂気」といった、対立する価値観の境界線を無くしていくことの大切さを伝えたかったシーンなのかもしれません。)

4. ケア技法「ユマニチュード」は学校教育にも応用できる

この映画の中で、私が最も大きな学びを得たのが、マリールーが取り入れた「ユマニチュード」というケアの技法です。

ユマニチュードとは、「包括的なケアの技法」であり、相手の尊厳を認めながらコミュニケーションをとる手法。映画の中でその具体的なアプローチを見ていて、「これは介護の世界だけでなく、デザインの現場や学校教育、人に何かを教える場にもそのまま応用できるのではないか」と非常に感銘を受けました。

人間関係の根本にある「相手を尊重し、伝える」というアプローチは、どんな領域でも共通する大切な視点だと、大きな気づきをもらいました。

おわりに

映画『急に具合が悪くなる』は、静かで美しい映像の中に、現代の社会問題と人間ドラマをぎゅっと凝縮し、最後は大きな感動へと連れて行ってくれる名作でした。

映画がこれだけ深かったので、ベースとなった原作ではどのように描かれているのかが非常に気になります。次はぜひ、原作も読んでみたいと思います!

みなさんもぜひ、劇場でこの美しい景色と、怒涛の展開を体感してみてください。

原作の単行本

急に具合が悪くなる

コメント

タイトルとURLをコピーしました