美大生がバイトにハマるとどうなる?3年間居酒屋を続けた私が、得たもの・失ったもの・就活で大苦戦した話

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美大生にとって、学費以外の制作費や、自由に使えるお金をどう確保するかは切実な問題ですよね。

私自身、学生時代は実家から武蔵野美術大学に通っていたため、ありがたいことに生活費そのものに困ることはありませんでした。しかし、「遊ぶお金や、課題以外の自由な制作費は自分で稼ぎたい」「せっかくだから社会勉強をしてみたい」という思いから、大学2年生の時にアルバイトを始めることにしたのです。

選んだのは、家の近くにあった居酒屋。

そこから大学卒業までの3年間、どっぷりと居酒屋バイトにハマる日々が始まりました。

今回は、一見デザインとは無関係に見えるアルバイトに美大生が全力投球した結果、「得たもの」「失ったもの」そして「就活で本気で大苦戦した話」を、私なりの備忘録として残しておこうと思います。

始まりは、友人たちへの憧れと「オートバイ」

そもそも、なぜ私がそこまでしてバイト代を稼ぎたかったのか。理由は「社会勉強」のほかに、もうひとつ大きな物欲がありました。

大学2年生になると、よく一緒に遊んでいた大学の友人たちが、こぞってオートバイに乗り始めたのです。楽しそうに風を切って走る彼らの姿を見て、私も「真似して乗りたい!」と猛烈に憧れを抱くようになりました。

それに、実家から大学まで電車で通うと、とにかくアクセスが悪くて乗り換えが3回もあったのです。「バイクがあれば通学の足にもなる!」と言い訳を作り、教習所に通って免許を取得。決して安くはないオートバイを、ローンを組んで購入しました。

初めて自分のバイクに乗って走った時の素晴らしさは、今でも忘れられません。

ほぼ生身の状態で時速100km近くまで加速すると、大げさではなく本当に「自分が風になった」ような感覚に陥るのです。しかも、自分でアクセルを回し、エンジンの回転数が上がりながらダイレクトに加速していく感覚は、私にとって人生最高の体験でした。

このローンの返済と、バイクで遊びに行く資金を作るため、私の居酒屋バイトへの熱量はさらに加速していくことになります。

【メリット】理不尽に耐える経験と、一生モノの「生活力」

3年間の居酒屋バイトで得たものは、大きく分けて2つあります。

1. 理不尽を学ぶ社会経験

居酒屋の店長や社員さんは、職人気質で荒っぽい人が多い環境でした。採用された当初はホール担当だったのですが、忙しい時間帯には強い言葉で叱責されることも日常茶飯事。

当時はヘコむこともありましたが、「世の中には理不尽なこともある」「色々な価値観の人がいる」ということを学生のうちに肌で学べたのは、ある意味でタフな社会経験になりました。

2. マルチタスク能力と、一生モノの料理スキル

バイトを始めて半年ほど経つと、ホールだけでなくキッチン(厨房)も任されるようになりました。

実家暮らしで、それまでほとんど料理をしたことがなかった私ですが、ここで基礎から料理を叩き込まれることになります。

特に週末のピークタイムは、まさに戦場でした。

宴会の予約が入っている日は、宴会用の大量の唐揚げを揚げつつ、同時並行で別のお客さんから注文が入ったチャーハンを中華鍋を振って作り、さらにホールの人手が足りない時は、自分で作った料理を持ってそのままテーブルまでダッシュで出しに行く……。

そんなドタバタの修羅場を切り盛りしていくうちに、気がつけば一通りの料理が作れるようになっていました。

遅番の日は、他のバイト仲間に出す「賄い(まかない)」を私が作ることもあり、この時培った「冷蔵庫にある食材を組み合わせて、ちゃちゃっと料理を作るスキル」は今でも健在です。

自炊が苦にならない、むしろ料理が好きというのは、人生において健康視点でも、純粋な娯楽視点でも、非常に価値の高い財産になったと感じています。

【デメリット】奪われた制作時間と、美術から遠ざかる居心地の良さ

一方で、バイトにのめり込んだ代償(デメリット)も確実に存在しました。

1. 課題や制作をする時間が削られる

夜遅くまでシフトに入り、週に2〜3日、土日も休まず働いていると、生活の主軸が徐々に「大学」から「バイト」へと傾いていきました。美大の課題を提出期限ギリギリでこなすのが精一杯で、プラスアルファの自主制作に充てる時間は完全にゼロになってしまったのです。

2. 美術と関係のないコミュニティの居心地の良さ

バイト先で新しい友達ができたのは、純粋に嬉しいことでした。ただ、彼らは美術やデザインとは全く関係のない属性の人たちです。

地元の居酒屋なので家も近く、頻繁に飲み会を開いたり、みんなでフットサルをしたり。一緒にいてとにかく楽しかったし、当時の私にとっては大切な居場所でした。

しかし、客観的に見れば見るほど、私の生活は美術やデザインの世界からどんどん遠ざかっていっていました。

【一番の教訓】上手くやりくりできている、という大きな誤解

当時の私は、自分を「器用な人間」だと思っていました。

バイトの仕事も覚えて周囲から信頼され、バイクのローンも払い、美大の課題もしっかり提出して単位を落とさない。上手くやりくりできている、と満足していたのです。

しかし、それが「とんでもない勘違いだった」と突きつけられたのは、大学4年生になって就職活動が始まってからでした。

「グラフィックデザインの会社に行きたい」と考え、いざ企業の採用試験に臨んだときのこと。面接に持参するポートフォリオ(作品集)を開いた面接官から、遠回しに、しかし核心を突くような言葉を投げかけられました。

「これ、授業の課題で作った作品ばかりだね。本当にグラフィックデザインが好きなのかな?」

頭を殴られたような衝撃でした。

私としては、課題に真面目に取り組み、形にして提出してきた自負がありました。しかし企業側から見れば、課題作品は「お題に対して真面目に答えた証拠」にはなっても、「本当にデザイナーになりたいのか」という自発的な資質や、圧倒的な熱意を測る材料にはならなかったのです。

周りを見渡すと、早々に内定をもらっている知人たちは、みんな動きが違っていました。

授業の課題は最低限の労力でクリアし、残りの全力投球の時間を「圧倒的な量の自主制作」「芸術祭での展示会・ファッションショーの企画」など、自分のやりたい表現に注ぎ込んでいたのです。彼らのポートフォリオには、溢れんばかりの「熱量」が詰まっていました。

課題をこなすだけで満足し、空いた時間をすべてバイトと遊びに費やしていた私のポートフォリオは、彼らのものと比べてあまりにも薄っぺらく見えました。そこからは、本当に苦しい就活のスタートでした。

まとめ:これからバイトを始める、続けている美大生へ

最終的に、私は運良く知り合いのツテで紹介していただいた会社に就職が決まり、グラフィックデザイナーとしてのキャリアをスタートさせることができました。結果オーライではありますが、在学中に「もっともっと自主制作をしておくべきだった」という後悔は、今でも苦い教訓として残っています。

美大生がアルバイトをすること自体は、決して悪いことではありません。私が居酒屋で得た社会経験や料理スキル、バイクで風を切ったあの素晴らしい体験は、今の私の人間性や、日々の丁寧な暮らしの土台になっています。

ただ、もしあなたが「将来、クリエイティブな道に進みたい」と強く願っているなら、バイトのシフトを入れる前に、ほんの少しだけでいいから「自分の意思で作る、自主制作の時間」を天秤にかけてみてほしいのです。

課題はあなたを裏切りませんが、あなたを「化けさせる」のは、課題の枠を超えたところにある、あなた自身の個人的な熱量(自主制作)です。

私のこの苦い失敗談が、いまバイトと制作のバランスに悩んでいる現役の美大生にとって、少しでもこれからの舵取りの参考になれば幸いです。

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