ヒットのカタチ Vol.4『シーブリーズ』|「海のおじさん」から「女子高生の青春」へ。大復活を支えたリデザインの秘密

Anatomy of Hits

こんにちは、muhakaです。

デザインとマーケティングの面白い関係を紐解く連載「ヒットのカタチ(ANATOMY OF HITS)」

第4回目となる今回は、中身(機能)はほとんど変えずに、「見せ方」「ターゲット」を変えただけで奇跡のV字回復を遂げた、ある有名な日用品のお話をします。

夏のドラッグストアにズラリと並ぶ、カラフルで爽やかな香りのデオドラントウォーター「シーブリーズ(SEA BREEZE)」

シーブリーズ SEA BREEZE デオ&ウォーター

現在はこのスプレー型が主流のようです

今の10代〜20代にとっては「部活終わりの女子高生が使うもの」「友達や恋人とキャップを交換する青春のアイテム(アオハル)」というイメージが完全に定着していますよね。

しかし、30代後半〜40代以上の方に聞くと、まったく違う答えが返ってきます。

「え? シーブリーズって、海で日焼けしたサーファーのお兄さんや、おじさんがバシャバシャ塗る薬っぽいローションでしょ?」

実はこれ、どちらも正解なのです。

市場の縮小と、奇跡の「ターゲット大転換」

シーブリーズはもともと1900年代初頭にアメリカで誕生し、日本では長く「海に行く20〜30代の若い男性」をメインターゲットにしていました。

「海で遊んだ後、日焼けで火照った肌をクールダウンさせる全身ローション」というポジションです。

しかし2000年代に入ると、若者の「海離れ」が加速します。さらに紫外線対策が一般化し、「肌を真っ黒に焼く」という文化自体が衰退してしまいました。

使うシーン(海)が減ったことで、シーブリーズの売上はどんどん落ち込み、深刻な低迷期に陥ります。

そこでブランド側が打って出たのが、マーケティング戦略の歴史に残る「リポジショニング(立ち位置の再定義)」でした。

「海の日焼け」から「日常の汗」へ

彼らは、「冷たくてスースーする成分」という商品自体の機能(中身)はそのままに、使うシーンとターゲットを180度転換させました。

  • ✖️ 過去: 「夏の海」で、「日焼けした20〜30代男性」が使う
  • ⭕️ 現在: 「日常の部活終わりや通学時」に、「汗をかいた女子中高生」が使う

「海での非日常」から「学校生活の日常」へ。

このターゲットの切り替えが見事に的中し、シーブリーズは「女子高生の青春(アオハル)に欠かせない必須アイテム」として、爆発的な大復活を遂げたのです。

デザイナー視点の考察:劇的復活を支えた「パッケージデザイン」

さて、ここからがグラフィック&プロダクトデザイナーとしての本題です。

いくら企業側が「今日から女子高生向けです!」と宣言しても、元の「厚いガラスの薬効感の強い無骨なボトル」のままでは、女子高生は絶対に買ってくれません。

この戦略を成功させるためには、ターゲットの心に刺さる「パッケージデザインの刷新」が必要不可欠でした。

「薬」から「化粧品(コスメ)」へのリデザイン

昔のシーブリーズのボトルは、良くも悪くも「効き目がありそうな薬(ローション)」という見た目でした。

それを、女子高生のスクールバッグや制服のポケットに入れても違和感のない、細身でスタイリッシュな形状へと変更しました。

さらに、成分や香りの違いを「ピンク」「イエロー」「エメラルドグリーン」といったカラフルでポップなパステルカラーで展開。

これにより、ドラッグストアの売り場で「今日は何色(どの香り)にしようかな」と選ぶワクワク感をデザインしたのです。

「余白」が生んだキャップ交換ブーム

そして、シーブリーズの復活を決定づけたのが、女子中高生の間で自然発生的に生まれた「キャップ交換」という文化です。

「友達同士で違う香りを買って、キャップだけ交換する」

「好きな人とキャップを交換して使い切ると、恋が実る(願いが叶う)」

そんなジンクスが中高生の間で大流行しました。

これは、ボトルの本体とキャップの色がパキッと分かれる構造になっていたことと、多色展開されていたからこそ生まれた「ユーザー発の遊び」です。

企業側から「交換してね」と強制したわけではなく、パッケージに「コミュニケーションツールとして遊べる余白(カスタマイズ性)」があったからこそ、SNS前夜〜スマホ時代への移行期に口コミで爆発的に広がったのです。(のちに企業側もこれを公式に後押しするキャンペーンを展開しました)。

まとめ:デザインは「誰の、どんな物語を作るか」

今回ご紹介したシーブリーズの事例から学べるのは、「売れないからといって、中身(製品)自体が悪いとは限らない」ということです。

「誰の、どんなシーンの悩みを解決するのか?(マーケティング)」を再定義し、それにふさわしい「顔(デザイン)」に着せ替えてあげるだけで、古い商品はまったく新しい価値を持って生まれ変わります。

デザインとは、ただ色や形を可愛くするだけではありません。

「その商品を手に取った人の日常に、どんな物語(アオハル)が生まれるか」までを想像してカタチにすることなんですね。

次にドラッグストアで色とりどりのシーブリーズを見かけたときは、ぜひ「ガラスの武骨なボトルだった時代」を少しだけ想像してみてください。

それでは、また次回の見本帳で。

【参考・出典】

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