基礎デザイン学科の思い出―デザインの根幹に向き合った4年間の記録

Art_school

一浪して滑り止めで受けた武蔵野美術大学 造形学部 基礎デザイン学科(基礎デ)に入りました。基礎デの授業で興味深かったものはいくつかあります。20年前の話になりますが、基礎デを志望する受験生の参考になればとまとめてみます。

色彩論とデザイン表現の原点

まずは、有名な「太陽の残像」の授業です。目をつぶった状態で太陽を見て、まぶたの裏に映し出される色を色彩構成で表現します。当時はデザインにパソコンを使うかの過渡期で、アドビソフトも今ほど使いやすくはありませんでした。

太陽の残像の色彩構成について、私は絵の具で行いましたが、数学受験で入った同級生はパソコンで制作していました。一浪までして実技の勉強をしていた私は「デザインをデジタルで作るなんて邪道だ」と当初は思っていましたが、時間を経て様々な課題に取り組むうちに、すっかりアナログで制作などしなくなってしまいました。

玉川上水をテーマにした「触覚地図」の課題では、ザラザラ、ツルツルなど様々なテクスチュアの素材を用いて触れられる地図を作成しました。

色彩論では他に「光の表出」という課題も面白かったです。正方形の用紙をさらにグリッド上に分けて、色を微妙に変化させるグラデーションを作り、光を感じさせるというものでした。グレーの紙に黒い鉛筆と白い鉛筆で描くデッサンも面白かったです。白い鉛筆を使うとハイライトや光の形を入れることができます。

また、基礎デの創設者である向井周太郎教授による「デザイン論」の授業も非常に面白かったです。虫の羽の模様や身振りと手振りなど、世界の中からデザインを見出す過程は、まさに「基礎デザイン」という感じでした。

1年次:初めてのグループ制作と刺激

入学して数ヶ月経つとグループ制作もスタートしました。私はこれまでグループでものづくりをしたことが無かったので新鮮でした。

初めは、吉祥寺の町をテーマにしたプロジェクトです。5人くらいのグループで取り組んだのですが、作業の分担やチームメンバーとの意見のすり合わせに非常に苦労しました。しかし、自分に無い能力をメンバー同士で補って作っていくグループ制作を、私は楽しいと感じました。

二学期になると、より長時間をかける課題も始まりました。「Tri.」という「3」をテーマにした課題も有名なもので、これもグループワークでした。普段話すグループではないクラスメイトとチームになり、AdobeのPremiereを使って映像作品を作りました。

自分たちも結構頑張ったと思ったのですが、爪が甘く、作品もやりきれていない感じでした。同級生がいろいろな友達を巻き込んで作ったトレンディドラマ風のCM作品が非常に完成度が高く、正直嫉妬もありましたが、素直に「すごい!」と思いました。

2年次:海外講師のワークショップとコンプレックスの克服

2〜3年次は学年ごとの課題にあいまいさもありますが、外部講師を招いてのワークショップ風の課題も覚えています。「バウマン&バウマン」のグラフィックデザイナー、ゲルト・バウマン氏とバーバラ・バウマン氏によるタイポグラフィワークショップでは、文字だけを使ってメッセージを表すタイポグラフィの面白さを知りました。

バウマン氏はRotisというフォントを愛用しており、この課題もそのフォントのみを使用するという制約がありました。以降、基礎デの印刷物にはRotisが多用されていることに気づきます。

2年次におこなわれたスタシス・エイドリゲヴィチウス氏によるポスターワークショップは、基礎デザイン学科と視覚伝達デザイン学科の合同で行われました。私のデザインしたポスターはスタシス氏により何点かの優秀な作品として選ばれました。

私は浪人して視デを受けましたが落ちてしまい、コンプレックスを抱いていたのですが、ここで評価されたことで大学でのデザイン課題で初めて手応えを感じることができました。

専門性の深化:インフォグラフィックスとの出会い

2年次からはより専門的な授業が増えていきます。浪人時代から興味があったグラフィックデザイン系の授業は楽しかったですが、中でも「ダイアグラム」や「ノーテーション」といった情報を視覚化する「インフォグラフィックス」的な課題が面白かったです。

ただインパクトのあるデザインを作るだけでなく、統計資料を調べたり、フィールドワークをして数値データを集めてそれを視覚表現にまとめていきます。資料を読み込んだり、リサーチをすることが好きな自分にとっては非常に楽しめる課題でした。今でもインフォグラフィックス的なデザインが好きなのは、大学時代の原体験が大きいのだと思います。

3年次:フィールドワークと編集的視点

3年次になると、自分の志向に合わせて授業を選んでいくことができます。私はそこで、「テクストインフォメーション」という授業に非常に強く惹かれました。

テクストインフォメーションとは、特定の地域や環境をリサーチし、情報を編集・視覚化する課題です。私が受講した年は川崎市の高津区をテーマにして、2回、制作とプレゼンテーションを行いました。

校内で机に向かって制作するだけでなく、現地を歩いて写真を撮ったり歴史を調べたりして企画を立てていくことが非常に自分に合っていました。また、市役所の人や街中の人に話を聞くことも、この授業でも無い限りやらないことなので楽しかったです。高津区の時は溝の口の駅前でプレゼンテーションをした記憶があります。

この授業もグループ制作でおこないました。私自身も手を動かしましたが、他のメンバーにそれぞれ得意分野(イラストやロゴデザインなど)の制作物をお願いして、最後にまとめて一つの企画としてプレゼンテーションをすることに非常に達成感を感じました。私は人前で話すことにもあまり抵抗感が無いので、駅前のプレゼンテーションも楽しかったです。自分は意外と、話したり人を乗せたりして一緒に何かを作ることが好きなのかもしれない、と思いました。

4年次:原研哉ゼミでの卒業制作

4年次になると就活が始まります。そこでの苦労話もあるのですが、それはまた別の記事にまわして、この記事では授業にフォーカスしようと思います。

4年生と言えばゼミです。私は浪人もしていてある意味でミーハーだったため、当時は就任して3年目だった原研哉教授のゼミを取りました。他の教授のゼミでは個々人でテーマを決めて卒業制作を進めていくのですが、原研哉ゼミでは「Ex-formation」という大きなコンセプトがあり、さらにゼミ生全員の毎年異なる共通のテーマに取り組むことになっていました。

私の年のテーマは「Resort(リゾート)」でした。リゾートといっても、大学生がハワイやバリなどで休暇を取る経験があるはずもなく、各自が卒業制作に落とし込むまでかなり難航しました。

私はグループ制作に味を占めていたので、この卒業制作もグループで挑みました。豪華なリゾートではなく日本的な“いなたい”リゾート地をテーマに、メンバーと共に何度も現地に足を運びました。教授に手配してもらって現地のホテルでも取材させてもらい、3人でおこなった研究を一冊の本にまとめました。

正直、講評ではあまり評価されませんでした。とあるリゾート地をテーマに様々な試みを行ったのですが、今考えるとどれもクオリティに難有りで「とりあえずやってみました感」が強かったです。メンバー全員で頑張りはしましたが、なかなか悔しい結果となりました。

まとめ

改めて書き出してみると、基礎デザイン学科の授業は非常にユニークで面白かったです。また、私自身、今行っている仕事やその他の様々な活動に通じる授業が多く、私の人生に大きな影響を与えたのだと感じています。

特定の分野に特化するのではなく、「デザイン」そのものについて考えたり向き合いたいという人にとって、「基礎デザイン学科」は非常にオススメできる学科です。

コメント

タイトルとURLをコピーしました