美大予備校に勤めていると、学生や保護者からこんな相談を受けることがあります。
「総合型選抜で、A大学のB学科を前期に受けて、A大学のC学科を後期に受けようと思っています。」
「A大学の総合型選抜を滑り止めにして、本命のB大学を受けたいです。」
ですが、これは基本的に勘違いです。
日本の私立美大の総合型選抜は、ほとんどが受かったら必ず入学しないといけない「専願」です。滑り止め的に使うことはできません。
今回は、なぜ美大の総合型選抜で併願や滑り止めができないのか、各大学の実際の募集要項(規約)を交えながら、予備校講師の視点で詳しく解説します。
1. そもそも「専願」とは?なぜ滑り止めにできないの?
「専願」とは、「合格したら、必ずその大学・学科に入学します」という大学との絶対の約束です。
もし、複数の大学の総合型選抜を同時に受けて複数合格した場合、辞退することは原則として許されません。
また、他大学との併願だけでなく、「同じ大学の別学科・専攻」を同時に受ける(学内併願)ことも禁止している大学がほとんどです。
2. 各美大の募集要項をチェック!厳しい「専願」のルール
実際に、各大学の「2027年度 学生募集要項」にはどのように書かれているのでしょうか。出願資格や条件の欄を見てみましょう。
武蔵野美術大学
「出願学科で学ぶことを強く希望し専願する者で、合格した場合は必ず入学することを確約できる者」と明記されています。
多摩美術大学
出願資格として「出願学科を専願し、強く学ぶことを希望する者で、本入学試験に合格した場合に入学を確約できる者」とされています。また、出願時には「試験に合格し、手続きを経て入学許可を得た後も専願であることを遵守いたします」と記された誓約書の提出が求められます。
東京造形大学
出願条件に「本学で学ぶことを強く希望し、合格した場合は必ず入学することを確約できる者」とあります。さらに「複数の専攻領域を併願することはできません」と学内併願も禁止されています。
女子美術大学
出願要件として「本学を第1志望として入学を希望する方であること」と定められています。
東京工芸大学
出願資格に「出願学科を第一志望とする人『合格した場合、必ず入学する人(辞退不可)』」とハッキリ書かれています。こちらも「本学芸術学部複数学科への併願はできません」と定められています。
日本大学芸術学部(日藝)
出願時のエントリーシートにて、「日本大学芸術学部を第一志望としてエントリーいたします」という誓約に署名する必要があります。
このように、どの大学も「合格したら絶対に入学すること」を大前提として試験を実施しています。
3. よくある失敗例:「日程がズレているから両方受けられる」の落とし穴
専願のルールを知っていても、もう一つ受験生が陥りやすい勘違いがあります。それは「試験日程のズレを利用した併願」です。
❌ 失敗のシナリオ
「武蔵美の●学科の総合型選抜は、多摩美の▲学科よりも試験日程が早い。だから、先に武蔵美を受けて、駄目だったら多摩美を受けよう」
これがいかに無謀か、予備校講師として3つの理由でお伝えします。
スケジュールの壁
武蔵美の発表日は多摩美の出願よりも後なので基本は難しいです。不合格が分かってから多摩美の出願書類(ポートフォリオや志望理由書など)を作り始めても、物理的に到底間に合いません。
「熱意」を問われる面接の壁
総合型選抜には面接があり、そこでは「どうしてもこの大学の、この学科に入りたい!」という確固たる熱意が見られます。「ダメだったからこっちに来た」という中途半端な気持ちは、面接官に見透かされてしまいます。
対策のコストパフォーマンスが最悪
「念のため両方の対策をしておく」というのも危険です。大学・学科ごとに全く異なる志望理由書を書き、それぞれに合わせたポートフォリオを作り、面接の練習をする…。
複数校の総合型選抜の対策を並行して行うのは、一般入試の対策をするよりも圧倒的に対策のコストパフォ―マンスが悪いです。結果的にどちらも中途半端に終わるリスクが非常に高いです。
4. 併願したい場合・滑り止めを確保したい場合はどうする?
では、複数の大学を受けたい場合はどうすればいいのでしょうか。
総合型選抜は「第一志望」の1校・1学科に絞る
総合型選抜は、本当に一番行きたい大学・学科へのチャレンジとして使いましょう。
併願は「一般選抜」を軸にスケジュールを組む
滑り止めを確保したい、複数校を受けたいという場合は、最初から併願が認められている「一般選抜」をメインに受験計画を立てるのが鉄則です。
一部の「併願可能な入試方式」を活用する
ごく一部ですが、併願が可能な試験方式もあります。例えば、東京工芸大学の「表現力選抜」などは、学内の複数学科への併願が可能です。
まとめ
「総合型選抜を滑り止めにする」「日程がズレているから複数受ける」といった安易な併願計画は、後で身動きが取れなくなる大きな危険をはらんでいます。
受験の基本は「募集要項を隅々まで読むこと」です。出願資格の欄に必ず目を通し、ルールの範囲内で戦略を立てましょう。
少しでも迷ったり、自分の受験計画に不安があったりしたら、独断せずに必ず予備校の先生に相談してくださいね!


コメント