私の最初の写真集である『THE LAST SUMMIT』が完成し、現在販売中です。こちらの本についてご紹介します。

私の父は、2017年7月に登山中の滑落事故により亡くなりました。「優しく、家族思いだった父にとって登山とは何だったのか?」。本作は、私が父親の最期の登山と向き合い、追体験することで亡き父との対話を試みた写真集プロジェクトです。

“THE LAST SUMMIT” Shu Watanabe’s Artist book

THE LAST SUMMIT

私の父は2017年7月15日、埼玉県秩父の両神山で、登山中の滑落事故により亡くなった。前年の9月に発覚した肝臓がん手術のため、年初に入院し、3月に退院。術後に肝硬変が発覚したものの、仕事や趣味の登山を少しずつ再開していた矢先だった。

「お父さんが昨日の朝、山に出かけたきり帰ってこないんだけど……」
快晴の朝に母からかかってきた電話の内容を聞いて、私は足元から地面が崩れていくような感覚がした。実家の近くの警察署で捜索願を出した後、妻の父が運転する車に乗せてもらい、私は両神山へ向かった。

父に無事でいてほしいと思う気持ちと同じくらい、このまま父が見つからなかったら、どうなるのだろうか?という考えが止まらず、絶望的な気持ちにもなっていた。私の気持ちを反映するかのように、現地に近づくにつれて激しく雨が降ってきたが、両神山に着く直前で現地の警察署から、父らしき人物の遺体が登山道の下で発見されたという連絡を受けた。警察署に運ばれてきた遺体を確認すると、それは紛れもなく父の顔だった。夏の暑い時期だったこともあり、父の遺体はそのまま火葬に回された。それゆえ、私以外の家族は、父の最期の顔を見ることがなく別れることとなった。

悪夢のような1日が終わり、秩父から東京へ帰る車中で私の頭に去来したのは、父が亡くなって悲しいという気持ちよりも、術後間もない体調を押して、なぜ父は登山に行ったのか?という憤りの気持ちだった。

葬儀など全てを終えて1週間ほどたった頃、私は実家の食器棚の引き出しに家族の写真が入っていたことを思い出した。父の面影を求めて写真を探してみると、これまで目に留まっていなかった父の登山写真が大量に出てきた。登山用のウエアやリュックを身にまとい、見渡す限りの自然の中で満足そうな表情をしている父の姿は、私が知っている、家庭での優しい父の姿とは異なっていた。

父にとって、登山とはどれほど魅力的だったのだろうか。事故で生じた憤りを消化するために、私は父が感じていた登山の魅力を知りたいと思うようになった。父の遺したメモを頼りに、ウエアや食事など登山に必要な装備をそろえ、父が登った山に登ることを決めた。

渡部周


渡部周 写真集「THE LAST SUMMIT」

・本文:204ページ
・言語:日本語または英語
・サイズ:215 x 312 x 24mm
・部数:69部
・写真・編集・印刷・製本: 渡部周
・コンセプト、ストーリーライン、アートディレクション:後藤由美(リマインダーズフォトグラフィーストロングホールド)
・英文校正:高木祥衣、Marc Kaufman
・写真提供:川島克巳、川島祐子、佐藤朝記、深田和夫、山岡瑞子、渡部紀久
・価格:15,400円(消費税込、別途送料についてはこちらをご確認下さい)、 全エディション署名入り

渡部周 写真集「THE LAST SUMMIT」ご注文サイト

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