[読書感想]「夜明けのはざま」町田その子|葬儀社に務める人々のオムニバスストーリー。知人の死に向かい、絡み合う人間ドラマが非常に面白かった

町田その子さんによる小説「夜明けのはざま」を読みました。

とても面白かったので感想をご紹介します。

夜明けのはざま

夜明けのはざま

町田そのこ
1,683円(04/26 19:45時点)
発売日: 2023/11/08
Amazonの情報を掲載しています

あらすじ

自分の情けなさに、歯噛みしたことのない人間なんて、いない。

地方都市の寂れた町にある、家族葬専門の葬儀社「芥子実庵」。仕事のやりがいと結婚の間で揺れ動く中、親友の自死の知らせを受けた葬祭ディレクター、元夫の恋人の葬儀を手伝うことになった花屋、世界で一番会いたくなかった男に再会した葬儀社の新人社員、夫との関係に悩む中、元恋人の訃報を受け取った主婦……。

死を見つめることで、自分らしく生きることの葛藤と決意を力強く描き出す、『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した町田そのこ、新たな代表作!

Amazonより

感想

葬儀社に勤める人々の人生を描いたオムニバス形式の作品。
オムニバスですが登場人物は同じ葬儀社に関わっているので、物語は関係しあっています。

大切な人の葬儀に立ちあったことがある人なら共感できると思うのですが、亡くなって初めて故人の知らなかった側面を知る、ということは多々あります。この本でもそういったことが描かれています。

当初、オムニバスかぁ、と思ったのですが、読んでみるとどのエピソードもすごく興味深いテーマを描いており、面白すぎて一気に読み終えてしまいました。

一章で登場した女性3人が、締めくくりの5章でも登場するのですが、彼女達のエピソードの行く末が、力強さと爽やかさがあって良かったです。

どのエピソードも甲乙つけ難い面白さでした!
ぜひシリーズ化してほしい!

満足度

90点/100点満点中

個々のエピソードの面白さ、それぞれのエピソードが絶妙に関連してくる面白さなどがあり、読み進めるのが止まらなくなりました。

夜明けのはざま

夜明けのはざま

町田そのこ
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[読書感想]「ヘヴン」川上未映子|凄惨ないじめの物語。クライマックスの展開に作者ならではの斬新さを感じた

黄色い家を読んで以来、川上未映子さんの小説が気になり、どんどん読んでいます。

今回は初期の方の作品「ヘヴン」の感想です。

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

川上未映子
682円(04/26 16:30時点)
発売日: 2012/05/15
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今回もAudibleでの読書です。

あらすじ

<わたしたちは仲間です>――十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える<僕>は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。

Amazonより

感想

それぞれ、別の加害者からいじめを受けている男女の中学生が主人公。

主人公たちが受けるいじめの描写がかなり凄惨で、加害者への怒りが湧いてきます。

途中、いくつか伏線?とも思われる内容が出てくるのですが、わりと回答されないまま、謎を残したまま終わったので、読後に「あの伏線どうなったっけ?」と思うこともありました。

しかし、現実の世の中でも気になっても結末が良くわからない出来事など、無数にあるので、全てを気にすることは意味がない、という作者なりのメッセージなのかもしれないと感じました。

最後、加害者への報い方が良くある展開ではなく、この作者ならではの斬新さを感じる展開で「おお!」と思いました。

大人になると、子供の頃は楽しかったな、とか子供の頃に戻りたい。

とか思うこともあるけど、子供には子供なりの残酷な世界があったことを、本作を読んで思い出しました。

満足度

80点/100点満点

後半にいくにつれて展開が気になり、止まりませんでした。

ヘヴン (講談社文庫)

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川上未映子
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[読書感想]「川のほとりに立つ者は」寺地はるな|人の本性はどこにあるのか?境遇、特性、思い込みなど、人の見方を教えてくれる良作

寺地はるなさんの小説「川のほとりに立つ者は」Audibleで読みました。

この著者の作品は初めて読んだのですが、要所要所に印象に残る文章があり、他の作品も読んでみたくなりました。

川のほとりに立つ者は

川のほとりに立つ者は

寺地はるな
1,520円(04/26 06:29時点)
発売日: 2022/10/20
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あらすじ

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

Amazonより引用

感想

男女2人の主人公による視点で物語が展開されるミステリー。

メインは女性の主人公、原田清瀬です。

彼女、彼が出会う人たちについて、はじめに抱いていた印象から、その人々の境遇、特性が明らかになるにつれて、別人かのように印象が変わっていく様子が劇的で、読者としても主人公の気持ちの変化を追体験できました。

女性主人公は正しさにこだわる人物として描かれていますが、ただその正しさから取った行動も、立場や視点を変えると過ちに見える時もあります。

物語の後半、主人公とある人物との対話の中で、完全な良い人と悪い人がいるのではなく、置かれた状況やタイミングによって、良い悪いを行き来するのが人間である、という意味の言葉に非常に胸を打たれました。

タイトルの意味も物語の後半で判明するのですが、とても詩的な表現で、この作家さんは独特な言葉選びをされるんだな、と印象に残りました。

長い物語ではないですが、面白くて一気読みしました。

満足度

80点/100点満点中

興味深いテーマなので、もう少しボリュームがあったら良かったと思いました。

川のほとりに立つ者は

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寺地はるな
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[読書感想]「夏物語」川上 未映子|未婚の主人公が精子提供による妊娠・出産を目指す、生命を問う物語

川上 未映子さんの小説「夏物語」Audibleで読みました。

夏物語 (文春文庫)

夏物語 (文春文庫)

川上 未映子
1,000円(04/26 16:31時点)
発売日: 2021/08/03
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あらすじ

大阪の下町で生まれ小説家を目指し上京した夏子。38歳の頃、自分の子どもに会いたいと思い始める。子どもを産むこと、持つことへの周囲の様々な声。そんな中、精子提供で生まれ、本当の父を探す逢沢と出会い心を寄せていく。生命の意味をめぐる真摯な問いを切ない詩情と泣き笑いの筆致で描く、全世界が認める至高の物語。

Amazonより引用

感想

面白いと感じたのは以下の部分です。

妊娠・出産という女性の人生のイベントを、当事者の視点から詳細に描かれています。私は当事者ではないので完全に理解するハードルは高いですが、丁寧な描写により”なるほど”と思わされるシーンも多かったです。

また、精子提供についての描写も興味深かったです。

倫理観やメリット・デメリットなどが探求されており、生命とは何かを考えさせられるテーマとなっています。

物語のキャラクターたちは一生懸命生きていますが、恵まれた環境ではない中でもどこかユーモラスさを持って描かれています。

特に、関西弁を使うキャラクターたちの会話は、Audibleで聴くとさらにその魅力が際立ちました。

最後に、本作が長編であることも魅力の一つです。物語が後半に進むにつれて、ストーリーの面白さが加速し、非常にカタルシスがありました。

満足度

88点/100点満点中

夏物語 (文春文庫)

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川上 未映子
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[読書感想]「黄色い家」川上未映子|”お金とは何か?”を個性的なキャラクター達の必死な生き様を通して描く傑作社会派ミステリー!

川上未映子さんによる小説「黄色い家」Audibleで読みました。

お金や人間について考えさせられる非常に面白い作品だったので感想を紹介します。

黄色い家

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川上未映子
2,048円(04/26 21:18時点)
発売日: 2023/02/25
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あらすじ

2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。
60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。
長らく忘却していた20年前の記憶―黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。
まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出す。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい……。
善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作!

Amazonより引用 – https://amzn.to/3V1VVOU

面白かった点

登場人物がとても魅力的!

主人公の花、不思議なお姉さんとして描かれている黄美子さん、友達の蘭や花、裏社会とつながりのあるヨンスさんやヴィヴィアンなど、登場人物のキャラクターが非常に個性的で立っています。

どのキャラも、完全な善人でもないし、かといって完全な悪人でもない。

必死に生きていくなかで善と悪の間を揺れ動いているように描かれていて、人間臭さを感じました。

周りの登場人物たちは色恋沙汰が多いのですが、主人公の花にはそういったエピソードはなく、ひたすらお金と向き合っている感じが良かったです。

花と関わる大人たちは、置かれた境遇から裏の職業に手を染めているが、彼女/彼たちも望んでおこなっていないということがわかります。

ヨンスさんやヴィヴィアンは、ナレーションの方の声の出し方も相まって子供から見た得体の知れない大人の格好良さが上手く演出されています。

お金について考えさせられる

本作のタイトルは黄色い家、黄色は金運の象徴です。

生きるために必死でお金を得ようとする登場する人物たちの言葉を借りて、改めて「お金とは何か?」という問いが物語の中で何度も提起されます。

クレジットカードについての説明も、自分が普段何気なくクレカを使っていますが、小説の中で改めて仕組みを説明されると、そういえばそういうものだったよな。と気づきました。

高校生くらいの若い人が読んだら、お金の勉強になって良いのではないかと思いました。

90年代の時代性

メインのストーリーが展開されるのは90年代の初期なので、X-JAPANや阪神淡路大震災、ポケベルなど、当時の時事ネタが散りばめられています。

私もこの時期に10代だったので作中に登場するワードに非常に懐かしさを感じました。

緊迫感の中のユーモア

また、ストーリー自体はかなり殺伐としているのですが、キャラクター同士の掛け合いや花のタフな思考回路などで、緊迫感のある中でもユーモアを感じるシーンが多いです。

重苦しくなりすぎずエンタメ作品として楽しめました。

後半の怒涛の展開

前半は結構ゆっくり進むので、わりとのんびりした話しなのかな?と思っていたのですが、花と黄美子さん、蘭や花が檸檬の営業をスタートしたくらいから、面白さが加速します。

花は銀行口座を持っていないために全資産を現金で所持しています。

物語の中で定期的に持っているお金を数えるシーンがあるので、読んでいる読者としても、花の持っているお金が多いときは安心し、ストーリーが展開していく中でどんどんお金が減っていくと、花の焦りとシンクロして読んでいる方もハラハラしていきます。

後半、花と黄美子さんが分かれるシーンはとてもドラマチックでした。

とりわけ、蘭と桃が花を説得するときの、花の受け答えに非常に胸が痛みました。

花は人並み以上に、一生懸命頑張って生きているのに、自分自身も周囲の大切な人もどんどん追い詰められていく様が壮絶であり、リアリティを感じました。

著者のインタビュー

このインタビュー記事を読んでさらに作品への理解が深まりました。

作家・川上未映子の死生観と「お金」への思い──「お金は生死のルールを超越していると見せかける」 | Vogue Japan
https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/mieko-kawakami-sisters-in-yellow-interview

著者の川上未映子さんも実際に夜の世界でお仕事をされていたようで、だからこそこの作品の人物描写はリアリティがあるのか!と納得しました。

まとめ

本作はキャラクター達の必死な生き様、それでもどうにもならなさのある人生、その描き方が素晴らしい傑作です。Audibleのナレーターの方の上手さもあり、後半は泣いてしまいました。

ぜひ多くの方に読んでいただきたいですし、今後映像化されたら嬉しい作品です。

満足度

98点/100点満点中

黄色い家 Kindle版

黄色い家

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川上未映子
2,048円(04/26 21:18時点)
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Header: Bente JønssonによるPixabayからの画像