【読書感想】『ブレイクニュース』|YouTubeニュース配信者が報道のあり方を問う物語【薬丸岳】

薬丸岳さんによる小説『ブレイクニュース』を読みました。

本作は、YouTubeでニュースチャンネルを運営する主人公・野依美鈴の活躍を描いた物語です。

感想をご紹介します。

ブレイクニュース (集英社文庫)

ブレイクニュース (集英社文庫)

薬丸岳
957円(07/13 09:16時点)
発売日: 2024/06/20
Amazonの情報を掲載しています

面白かった点

  • 謎めいた主人公
    序盤から野依美鈴の過去や目的がほのめかされており、読者の関心を引きつけます。
  • 大手メディアとの対比
    週刊誌など既存の大手メディアと自由度の高いYouTubeニュースとの対比が鮮やかに描かれています。
  • 練られた伏線回収
    オムニバス形式で進行する各エピソードの中、最終章の「医療過誤」エピソードは序盤の小さな示唆がすべてつながり、読み応えがあります。
  • 魅力的な仲間たち
    社会的に弱い立場に置かれた人々を次々とチームに迎え入れ、その絆が深まっていく展開が心地よいです。

気になった点

  • YouTuber描写の古さ
    一昔前の「炎上してなんぼ」という感覚が残っており、現在のプラットフォーム運営(BAN規制やコミュニティガイドラインなど)を反映し切れていない印象があります。
  • 配信形式の不明瞭さ
    本作では「ライブ配信なのか編集動画なのか」が明示されておらず、どのようにニュースを配信しているのか把握しづらいです。
  • 展開のおとなしさ
    現実の暴露系YouTubeでは思いもよらない急展開が起こることが多いですが、本作は比較的穏やかなストーリー運びにとどまっています。

オススメ度

7.3点(10点満点中)

YouTube運営やニュース報道に興味がある方には特におすすめの一冊です。既存メディアとの対比や、人と人とのつながりを重視した物語をお楽しみください。

ブレイクニュース (集英社文庫)

ブレイクニュース (集英社文庫)

薬丸岳
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【読書感想】『カフネ』|料理がつなぐ、2人の女性の再生の物語【阿部暁子】

2025年の本屋大賞を受賞した話題作『カフネ』
読み始めたら止まらず、一気に読了しました。とにかく面白い。そして、心に優しく染み入る物語でした。

『カフネ』阿部暁子(著)

あらすじ

最愛の弟が急死した。29歳の誕生日を祝ったばかりだった。姉の野宮薫子は遺志に従い弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。….

Amazonより引用

魅力的な主人公たち

主人公の薫子とせつなは、どちらも“スパッとした”性格の持ち主。
物言いはハッキリしていて、行動も潔い。そんな彼女たちのやりとりがとにかく魅力的で、ページをめくる手が止まりません。

キャラの立ち方が抜群で、会話のテンポや空気感に引き込まれました。

食と人生の交差点

物語の前半では、せつなが腕をふるう料理の描写が印象的。
ただの料理シーンではなく、丁寧な調理過程や食材の描写が生き生きと描かれていて、読んでいるだけで食欲が刺激されます。

中でも、ある「肉を食べるシーン」は強く印象に残りました。五感をフルに使って描かれていて、臨場感がすごい…!

本作では「食べること」がテーマの中心に据えられており、料理を通して心が癒やされていく様子が丁寧に描かれています。
“料理が人を救う”というメッセージが静かに、しかし力強く伝わってきました。

後半の展開と感動のクライマックス

物語後半では、さりげなく散りばめられていた伏線が回収され、ミステリー的な面白さも加速。
そしてクライマックスの食事シーン——ここは本当に素晴らしかったです。
優しさと愛情が詰まった描写に、自然と涙がこぼれました。

登場人物たちの“生”が響く

主役だけでなく、脇役たちもそれぞれにクセがありながら、皆懸命に生きている。
嫌なキャラクターが一人もおらず、読後感もとても良かったです。

人生の痛みや孤独、再生のきっかけを、静かにそして確かに描いた物語。
2025年の本屋大賞受賞もうなずける、心に残る一冊でした。


こんな人におすすめ

  • 美味しいものが好きな人
  • 料理に癒されたい人
  • 人生に挫折を感じた経験がある人
  • 静かな感動に浸りたい人

オススメ度

9.5点(10点満点中)

生きる力をもらえる物語です。ぜひ読んでみてください!

『カフネ』阿部暁子(著)

Header: Mansour ObaidiによるPixabayからの画像

Audible(オーディブル)を半年間契約している私が、オーディオブックの魅力とイチオシの小説をご紹介します!― 逢坂冬馬、朝井リョウ、川上未映子、早見和真、凪良ゆう、など

Amazonが提供するオーディオブックサービス、Audible(オーディブル)は、本を読みたいけれど時間がない人や移動中に“ながら”で本を楽しみたい人にとって、革命を起こしています。

今回の記事では、Audibleのサブスクリプションを半年間継続している私が、その素晴らしさについてご紹介していきます。

Audibleとは?

Audibleは、プロのナレーターが朗読した本をアプリで聴けるサービスです。移動中や作業中など、いつでもどこでも読書ができ、オフライン再生も可能です。

https://www.audible.co.jp/ep/audiobook?source_code=GPSSRCHALLW0710150001&ipRedirectOverride=true&gclid=Cj0KCQjwqpSwBhClARIsADlZ_Tm_yRqS7UIcq7-MbhGui042uvelO8bpieqLJASt86z2q-OfhGWFQggaAteqEALw_wcB&gclsrc=aw.ds

月会費1500円で聴き放題。初めての方には30日間の無料体験があります。

Audibleの無料体験はこちらから↑

Audibleの魅力

ナレーションの魅力

Audibleの最大の魅力は、ナレーションによるストーリーテリングの体験です。プロのナレーターや俳優・声優が物語を生き生きと演じることで、物語がよりリアルで感情的になります。これにより、読者は物語に非常に没入しやすくなります。

多様なジャンルと選択肢

Audibleには、小説、自己啓発書、ビジネス書、歴史書など、さまざまなジャンルの本が豊富に揃っています。さらに、古典文学やベストセラーから、未知の著者の作品まで、多くの選択肢があります。

文芸作品から自己啓発、金融・経済まで、多彩なジャンルの本が揃っています

移動中や家事の合間など、隙間時間に活用できる

Audibleは、通勤やジョギング、家事の合間など、普段の生活の中で手軽に楽しむことができます。本を読む時間がないと感じる人にとって、この便利さは特に魅力的です。

実際に私も、通勤時間、PCでのデザイン作業中、ジムでのトレーニング中、料理や掃除を始めとした家事の最中など、様々な時間でAudibleの物語を楽しんでいます。
通常の本の場合は、買っても読む時間が無かったりする場合、積読になりがちですが、Audibleは耳さえ空いていれば楽しめるので、気になったコンテンツを”ながら”で楽しむことができます。

広告が入らない

耳で楽しむ、という意味ではラジオなども近いですが、ラジオの視聴だと随所に広告が入るのが結構気になっていました。

Audibleは広告が入らないので、集中して聴くことができます。

ダウンロードして読むことができる

携帯端末にダウンロードをして読む(聴く)ことができるので、ネットワークのないオフライン環境でも読書を楽しむことができます。

比較的新しい話題作を楽しめる

本屋大賞受賞作品など、比較的近年の受賞作品がすぐに登録されるので、新しい話題作を読むことができます。

また、映画放映中の作品の原作などもプッシュされているので、オーディブルで原作を聴いて、映画を見ることでより作品を楽しむことができます。

本屋大賞や直木賞・芥川賞受賞作品などが豊富に揃っています

聴覚を使った新しい学びの方法

Audibleは、視覚に頼らずに聴覚を使って情報を取り込むことができるため、新しい学びの方法としても注目されています。通勤中や運動中に学びたいと思っている人にとって、理想的な学習ツールです。

英語を始めとした外国語でナレーションをしている作品を集めたページ。語学の勉強になります

著名人や著名な声優によるナレーション

一部のAudibleには、著名な声優や著名人によるナレーションがあります。彼らの独特の声や表現力によって、物語がさらに深みを増すことがあります。

湊かなえ『未来』こちらの作品は俳優の、のんさんが朗読しています

Audibleの短所

長所はそのまま短所になることが多いのですが、不便を感じる点も書いておきます。

ダウンロードにひと手間かかる

新しい作品をいつでも読みたければ、Wi-Fi環境でダウンロードすることが推奨されます。

忘れて出先でダウンロードをおこなおうとすると、モバイル通信の通信量を結構消費するので、やや煩わしいです。

寝落ちすると読み返すのが大変

電車などで聴いていて、寝落ちしてしまうと、そのまま内容が進んでしまいます。

本と違ってページ数が振られているわけでは無いので、寝る前に読んでいた部分まで戻るのがちょっと大変です。

ナレーションが作品の良さを左右する

本なのでもちろんコンテンツありきではありますが、ナレーションが作品の良さの半分くらいを占めていることも事実です。

例えば、自分が好きな物語であっても、ナレーションが好きな感じでない場合、作品全体の印象が“惜しい”感じになってしまいます。

耳が疲れる

これは、紙や電子の本であればずっと読んでいると目が疲れると思いますが、Audibleも同様で、面白いからと行ってずっと聴いているとやはり耳が疲れてきます。

適度な休憩は必要ですね。

私のAudibleイチオシ作品

私のイチオシ作品をご紹介します。商品リンクはAmazonのボタンをクリックすると商品ページにAudible版のリンクが記載されています。

同志少女よ、敵を撃て|逢坂 冬馬(著)

第二次大戦中、旧ソ連軍の女性狙撃兵セラフィマと仲間たちの壮絶な戦いを通して、女性にとっての戦争を描く大作。

史実を元にした緊迫感のある内容と、セラフィマの仲間の狙撃兵のキャラクター描写がとても魅力的で引き込まれます。

こちらの記事で詳細な感想を書いています

正欲|朝井リョウ(著)

正欲(新潮文庫)

正欲(新潮文庫)

朝井リョウ
703円(07/14 04:40時点)
発売日: 2023/05/29
Amazonの情報を掲載しています

様々な登場人物の視点を通して、性欲や、性的志向、その正しさとは何か?を問いかける作品。

Audible版はナレーターさんの数も多くて、大作映画を観ているような体験ができます。

初めはそれぞれの登場人物たちは全く関係ないストーリーを歩んでいるように見えるのですが終盤になるにつれてストーリーが絡み合い伏線を回収する様は圧巻です。

こちらの記事で詳細な感想を書いています

黄色い家|川上未映子(著)

黄色い家

黄色い家

川上未映子
2,048円(07/13 10:55時点)
発売日: 2023/02/25
Amazonの情報を掲載しています

事情を抱えながらも共同生活をする女性たちが主役の物語。

女性の貧困問題を、実際に夜の仕事をしていた著者ならではの視点で濃密に描いています。

壮絶な出来事が起きているのですが、どこかユーモアを感じる描写なので、エンターテイメントとしても楽しみながら読めます。

ナレーションも非常に上手です!

こちらの記事で詳細な感想を書いています

店長がバカすぎて|早見和真(著)

店長がバカすぎて (ハルキ文庫)

店長がバカすぎて (ハルキ文庫)

早見和真
683円(07/13 10:55時点)
発売日: 2020/08/18
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書店で働く主人公が、どこか抜けている店長に振り回されるコメディ作品。

軽快なノリで、ナレーションも明るい声なのでAudible入門に相応しい作品です。

ギャグ多めですが、登場人物達が本や書店への想いを語るシーンは非常にグッときます。

汝、星のごとく|凪良ゆう(著)

離島生まれの2人の主人公の人生を描いた作品。人気の作家の代表作ともいえる作品です。

主人公達に押し寄せる苦難がとにかく壮絶で、読んでいて胸が苦しくなります。

ただその長い苦しみのストーリーの果てに本のタイトルである「汝、星のごとく」という言葉を回収するシーンは素晴らしいカタルシスがありました。

こちらの記事で詳細な感想を書いています

ザリガニの鳴くところ|ディーリア・オーエンズ(著)

ザリガニの鳴くところ (ハヤカワ文庫NV)

ザリガニの鳴くところ (ハヤカワ文庫NV)

ディーリア オーエンズ
825円(07/14 04:40時点)
発売日: 2023/12/05
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海外作家による小説は、私はこれまで食わず嫌いなところがあったのですが、Audibleのナレーションだと、隙間時間に物語を楽しむことができました。

アメリカ南部の街で起きた殺人事件。容疑者とされたのは、社会から断絶された「湿地の少女」と呼ばれる女性でした。

ホワイトトラッシュと呼ばれるアメリカ南部の貧困階層に目を向けた物語。

主人公・カイアの置かれた境遇の辛さと、湿地の自然の美しさの対比が感傷に訴える、名作です。

こちらの記事で詳細な感想を書いています

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士|丸山正樹(著)

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫)

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士 (文春文庫)

丸山正樹
800円(07/13 07:38時点)
発売日: 2015/08/10
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聾の方が事件に巻き込まれた際に、法定で手話で通訳をする手話通訳士の物語。

タイトルにもあるデフ・ヴォイスとは聾の方が発する音なのですが、それがAudibleではしっかりと音として聴くことができます。

「聴く読書」であるAudibleの特徴を最大限に発揮した物語です。

手話の世界を知ることもできるので非常に勉強になります。

こちらの記事で詳細な感想を書いています

以上です。

どの作品も非常に面白く、聴き進めることが止まらなくなりました。

Audibleは、本を読む時間がない人々や、新しい学びの方法を探している人々にとって、素晴らしい選択肢です。

ナレーションの魅力や多様な選択肢、隙間時間に活用できる利便性など、さまざまな魅力が詰まっています。ぜひ、Audibleを通じて新しい世界を発見してみてください。

Audibleには30日間の無料体験があります!

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[読書感想]「ヘヴン」川上未映子|凄惨ないじめの物語。クライマックスの展開に作者ならではの斬新さを感じた

黄色い家を読んで以来、川上未映子さんの小説が気になり、どんどん読んでいます。

今回は初期の方の作品「ヘヴン」の感想です。

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

川上未映子
682円(07/13 18:37時点)
発売日: 2012/05/15
Amazonの情報を掲載しています

今回もAudibleでの読書です。

あらすじ

<わたしたちは仲間です>――十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える<僕>は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。

Amazonより

感想

それぞれ、別の加害者からいじめを受けている男女の中学生が主人公。

主人公たちが受けるいじめの描写がかなり凄惨で、加害者への怒りが湧いてきます。

途中、いくつか伏線?とも思われる内容が出てくるのですが、わりと回答されないまま、謎を残したまま終わったので、読後に「あの伏線どうなったっけ?」と思うこともありました。

しかし、現実の世の中でも気になっても結末が良くわからない出来事など、無数にあるので、全てを気にすることは意味がない、という作者なりのメッセージなのかもしれないと感じました。

最後、加害者への報い方が良くある展開ではなく、この作者ならではの斬新さを感じる展開で「おお!」と思いました。

大人になると、子供の頃は楽しかったな、とか子供の頃に戻りたい。

とか思うこともあるけど、子供には子供なりの残酷な世界があったことを、本作を読んで思い出しました。

満足度

80点/100点満点

後半にいくにつれて展開が気になり、止まりませんでした。

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

川上未映子
682円(07/13 18:37時点)
発売日: 2012/05/15
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[読書感想]「川のほとりに立つ者は」寺地はるな|人の本性はどこにあるのか?境遇、特性、思い込みなど、人の見方を教えてくれる良作

寺地はるなさんの小説「川のほとりに立つ者は」Audibleで読みました。

この著者の作品は初めて読んだのですが、要所要所に印象に残る文章があり、他の作品も読んでみたくなりました。

川のほとりに立つ者は

川のほとりに立つ者は

寺地はるな
1,568円(07/13 13:06時点)
発売日: 2022/10/20
Amazonの情報を掲載しています

あらすじ

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

Amazonより引用

感想

男女2人の主人公による視点で物語が展開されるミステリー。

メインは女性の主人公、原田清瀬です。

彼女、彼が出会う人たちについて、はじめに抱いていた印象から、その人々の境遇、特性が明らかになるにつれて、別人かのように印象が変わっていく様子が劇的で、読者としても主人公の気持ちの変化を追体験できました。

女性主人公は正しさにこだわる人物として描かれていますが、ただその正しさから取った行動も、立場や視点を変えると過ちに見える時もあります。

物語の後半、主人公とある人物との対話の中で、完全な良い人と悪い人がいるのではなく、置かれた状況やタイミングによって、良い悪いを行き来するのが人間である、という意味の言葉に非常に胸を打たれました。

タイトルの意味も物語の後半で判明するのですが、とても詩的な表現で、この作家さんは独特な言葉選びをされるんだな、と印象に残りました。

長い物語ではないですが、面白くて一気読みしました。

満足度

80点/100点満点中

興味深いテーマなので、もう少しボリュームがあったら良かったと思いました。

川のほとりに立つ者は

川のほとりに立つ者は

寺地はるな
1,568円(07/13 13:06時点)
発売日: 2022/10/20
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Header: StockSnapによるPixabayからの画像