【読書感想】「傲慢と善良」|善意が生む悲劇と感動の物語【辻村深月】

辻村深月さんの小説「傲慢と善良」を読了しました。とても面白い作品だったので感想をご紹介します。

物語の概要

婚活で出会った男女の物語です。結婚式を間近に控えたある日、女性である真実が突然失踪してしまいます。その謎を追う中で、二人の間に何が起きたのかが少しずつ明らかにされていきます。

人間ドラマが生むサスペンス

この作品を通じて、「どこにでもありそうな人間ドラマ」が最も心を揺さぶるサスペンスだと強く感じました。物語の展開に引き込まれ、何度も心を揺さぶられる場面がありました。非常に面白かったです。

善意が引き起こす悲劇

主要な登場人物には悪人が一人もいません。どのキャラクターも善良で、他人の幸せを願いながら行動しています。しかし、その善意が意図せず、自分のコミュニティ外の人々を傷つけてしまう様子がリアルに描かれています。このテーマは、現代社会の複雑な人間関係を鮮やかに映し出しているように感じました。

二人の視点と成長

前半は男性・架(かける)の視点で、後半は失踪した女性・真実の視点で物語が進行します。それぞれの視点を通じて、二人の葛藤や成長が繊細に描かれています。特にクライマックスに向かうにつれて、二人が少しずつ自分自身と向き合い、成長していく姿に感動しました。

感動のラストシーン

そして迎えた最後のシーンには、深い感動を覚えました。人間の善意と不完全さを真正面から描いたこの物語は、読む人にさまざまな気づきを与えてくれる一冊だと思います。

満足度

95点/100点満点中

ミステリーとしても、大人の愛を描いた作品としても読み応えがあり傑作だと感じました!!!

傲慢と善良 (朝日文庫) 

【読書感想】「籠の中のふたり」薬丸岳|2人の男性が共同生活で築く絆と再生の物語

薬丸岳による小説「籠の中のふたり」を読みました。とても面白い物語でしたので感想をご紹介します。

籠の中のふたり

暗い過去を抱えた二人の共同生活

「籠の中のふたり」は、過去に深い傷を抱える男性同士の絆を描いた物語です。

生真面目で人と関わることを避けてきた快彦と、明るく人懐っこい亮介が、とあるきっかけで共同生活を始めます。

二人の交流を通じて、快彦が少しずつ心を開いていく様子が非常に心に残ります。

快彦を変える亮介の存在

亮介が快彦の生活に入り込むことで、快彦の周りには次第に魅力的な人々が集まるようになります。その描写が温かく、読んでいてとても和やかな気持ちになれます。

人と人との関わり合いの大切さを感じる部分です。

事件の真相がもたらす緊張感

物語後半では、亮介が過去に起こした傷害致死事件の真相が明らかになります。

この事件は二つの家族を巻き込み、読んでいて胸が痛くなる展開です。

しかし、その真相が徐々に解き明かされる過程は、ミステリーとしての緊張感に満ちています。

クライマックスとタイトルの意味

カバーイラストに描かれている場面は、作中のクライマックスそのものです。

このシーンでタイトルの意味が明らかになります。

亮介が快彦に真相を伝える場面は、切なくも感動的で、読後も心に残りました。

後日談が読みたくなる余韻

快彦と亮介、そして彼らを取り巻く人々が物語の後にどのような人生を歩むのか、とても気になります。

この作品は、人とのつながりについて考えさせられる一冊でした。

満足度

90点/100点満点中

籠の中のふたり

Header: ProtoculturaによるPixabayからの画像

【手製本】私が使う製本用糊ボンド:フエキノリ×木工用ボンドの配合レシピ【のり】

私が手製本で制作しているアーティストブック「THE LAST SUMMIT」について、カバーの接着に使用している糊の配合をご紹介します。

木工用ボンドとフエキノリを混ぜて作るため、製本をする人からは「糊ボンド」と呼ばれることもあります。

50冊以上の製本を経験しており、その中で試行錯誤を繰り返し、現在は安定した配合が完成しました。


使用場所

「糊ボンド」は、以下の場面で使用しています:

  • カバーを板紙に貼る際
  • カバーと本体を接着する際

配合元の糊

以下の糊材を使用し、水と混ぜ合わせます:

木工用ボンド

小学校の図画工作などで使う一般的なものです。

ボンド 木工用 CH18 500g(ボトル) #40117

フエキノリ(でんぷんのり)

ヤマト糊と見た目が似ていますが、ヤマト糊は時間が経つと黄色く変色するため、製本にはフエキノリが適しています。

フエキ でんぷんのり FP10 100g ×5 セット


配合手順

1.フエキノリと水を1:1で混ぜる

フエキノリに少しずつ水を加え、ダマにならないようしっかり混ぜます。

例:フエキノリ40gに対して水40gを使用すると、約3〜5冊分の糊が作れます。

2.混ぜた糊に対して木工用ボンドを10〜20%加える

木工用ボンドを加え、さらに混ぜます。

例:1.で作った80gのフエキノリ+水に対し、木工用ボンドを8g〜16g加えます。

3.糊ボンドが固ければ水を少量ずつ加える

刷毛で塗る際にムラが出ないよう、糊ボンドは少し緩めに調整します。
糊ボンドを刷毛に付け、持ち上げた際に糸状に垂れるくらいが目安です。


製本後に余った糊ボンドはどうするか?

  • 数日内に使用する場合
    密閉容器に入れて保管すれば問題ありません。
  • 長期間使わない場合
    糊ボンドは水が混ざっているため腐敗しやすいので、使い切れない分は廃棄しましょう。

他の部分の糊について

背固めには以下の糊をそのまま使用しています。

フィルムルックス 製本のり ブックグルーミニ 01539 200g


参考図書

今回の糊ボンドの配合は以下の本を参考にアレンジしています。

素材を活かした手製本の教室―革装・布装・和装の作り方から本の直し方まで (HAND BOOKBINDING LESSON)

写真付きで解説があり、製本に使える他の糊の作り方も載っているため、製本に興味がある方にはおすすめです!

    【読書感想】「リバース」湊かなえ|もう戻れない時間に気づかされる物語【ミステリー】

    湊かなえの小説「リバース」を読みました。感想を簡単にご紹介します。

    小説「リバース」のあらすじ

    深瀬和久は平凡なサラリーマン。唯一の趣味は、美味しいコーヒーを淹れる事だ。そんな深瀬が自宅以外でリラックスできる場所といえば、自宅近所にあるクローバーコーヒーだった。ある日、深瀬はそこで、越智美穂子という女性と出会う。その後何度か店で会ううちに、付き合うようになる。淡々とした日々が急に華やぎはじめ、未来のことも考え始めた矢先、美穂子にある告発文が届く。そこには「深瀬和久は人殺しだ」と書かれていた――。何のことかと詰め寄る美穂子。深瀬には、人には隠していたある“闇”があった。それをついに明かさねばならない時が来てしまったのかと、懊悩する。
    引用:Amazonより

    主な登場人物

    • 深瀬和久(ふかせ かずひさ):本作の主人公。事務機器メーカーの営業職。趣味はコーヒー。
    • 越智美穂子(おち みほこ):深瀬の恋人。
    • 広沢由樹(ひろさわ よしき):深瀬の大学時代のゼミ仲間で親友。そばアレルギー。
    • 浅見康介(あさみ こうすけ):深瀬の大学時代のゼミ仲間。高校教師。
    • 村井隆明(むらい たかあき):深瀬の大学時代のゼミ仲間。父親が県議会議員。
    • 谷原康生(たにはら やすお):深瀬の大学時代のゼミ仲間。商社勤務。

    感想

    時間を巻き戻す構成の魅力

    冒頭の事件から時間を巻き戻すように展開するストーリーが印象的でした。物語が進むにつれて、登場人物の印象が変わっていくのも面白いポイントです。

    コーヒーが物語に与える影響

    主人公がコーヒー好きという設定で、物語の要所にコーヒーの描写が出てくるため、私もコーヒー好きとして、物語の世界に入り込みやすかったです。

    人間関係の深さと新しい発見

    また、事件で亡くなった主人公の友人やその大切な人について知っていく過程を通じて、身近な人であっても全てを知っているわけではなく、亡くなってから新しい面を知ることがある――そんな現実のプロセスが描かれていると感じました。

    後悔と時間の不可逆性

    知るほどに「もっとああしておけばよかった」と後悔してしまうことも多いですが、この物語は、時間が巻き戻せそうで巻き戻せないという現実を教えてくれます。

    満足度

    75点/100点満点中

    一度読んだだけでは最後のトリックがしっかりと理解できず、解説サイトを読んでようやく納得しました。理解した瞬間は『おお!』と感嘆してしまいました。

    リバース (講談社文庫 み 67-1)

    Header: wal_172619によるPixabayからの画像

    【読書感想】「シャドウ」道尾秀介|緻密に編み込まれた謎と衝撃の展開に圧倒される一冊!—あらすじ、登場人物、感想など 【ミステリー】

    今回は、道尾秀介さんのミステリー小説「シャドウ」を読んだ感想をお届けします。

    2つの家族に絡む事件と精神医療をテーマにした物語で、その重厚さとスリル満点の展開が魅力的な一冊でした。

    シャドウ (創元推理文庫)

    シャドウ (創元推理文庫)

    道尾 秀介
    544円(01/16 04:56時点)
    発売日: 2009/08/14
    Amazonの情報を掲載しています

    あらすじ

    人は、死んだらどうなるの?――いなくなるのよ――いなくなって、どうなるの?――いなくなって、それだけなの――。その会話から三年後、凰介の母は病死した。父と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが……。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは? いま最も注目される俊英が放つ、巧緻に描かれた傑作。第七回本格ミステリ大賞受賞作。
    引用:Amazon.co.jp: シャドウ (創元推理文庫) 電子書籍: 道尾 秀介: Kindleストア

    主な登場人物

    • 我茂 凰介(がも おうすけ):小学5年生。我茂洋一郎の息子。
    • 我茂 洋一郎(がも よういちろう):凰介の父。44歳。相模野医科大学病院に勤務している。
    • 我茂 咲江(がも さきえ):洋一郎の妻、凰介の母。スクールカウンセラー。
    • 水城 徹(みずしろ とおる):洋一郎の大学時代からの同級生。相模野医科大学研究員。
    • 水城 恵(みずしろ めぐみ):徹の妻。保険のセールスレディ。
    • 水城 亜紀(みずしろ あき):水城夫妻の娘。小学5年生。凰介と同じ小学校に通う幼馴染。
    • 田地 宗平(たじ そうへい):洋一郎と水城の大学時代の恩師。当時は医学部長を務めていた。現在は相模野医科大学で講師や、大学病院で精神科の非常勤医として働いている。
    • 竹内 絵美(たけうち えみ):洋一郎と水城の大学時代の同級生。現在は相模野医科大学の精神科医。

    不穏な序盤|全員が怪しく見える登場人物たち

    物語は序盤から登場人物全員が何かを隠しているような雰囲気が漂い、誰もが怪しく見えるような伏線が張られています。

    このため、読んでいると「誰が主人公なんだろう?」とすら思ってしまうほどです。次々と明かされる謎に惹きつけられて、ページをめくる手が止まりません。

    解明パートで明かされる真実|伏線が一気に回収される後半

    後半に入ると、いよいよ事件解明のパートに突入。

    これまで張り巡らされてきた伏線が次々と回収されていきますが、この部分にはかなりのボリュームが割かれており、一つひとつの謎が丁寧に解かれていく様子にぐいぐいと引き込まれました。

    さらに、真犯人を巡って物語が二転三転するため、予測がつかずドキドキの連続です。

    衝撃のクライマックスと深い余韻

    結末は殺伐とした事件の中にも心を動かされるシーンがあり、単なるミステリー以上の感動が味わえました。

    そして、真犯人がかなり非道な悪者として描かれていたのも印象的です。

    普段読んでいるミステリーでは、悪役にもどこか共感や同情の余地があることが多いですが、ここまで完全に“悪”として描かれているのは新鮮で驚きました。

    まとめ|スリルを求める方におすすめの一冊

    「シャドウ」は、スリリングで手に汗握る展開が好きな方、また緻密に張り巡らされた伏線が回収されていく過程を楽しみたい方に、ぜひおすすめしたい一冊です!

    満足度

    90点/100点満点中

    シャドウ (創元推理文庫)

    シャドウ (創元推理文庫)

    シャドウ (創元推理文庫)

    道尾 秀介
    544円(01/16 04:56時点)
    発売日: 2009/08/14
    Amazonの情報を掲載しています