【読書感想】『ブレイクニュース』|YouTubeニュース配信者が報道のあり方を問う物語【薬丸岳】

薬丸岳さんによる小説『ブレイクニュース』を読みました。

本作は、YouTubeでニュースチャンネルを運営する主人公・野依美鈴の活躍を描いた物語です。

感想をご紹介します。

ブレイクニュース (集英社文庫)

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薬丸岳
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発売日: 2024/06/20
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面白かった点

  • 謎めいた主人公
    序盤から野依美鈴の過去や目的がほのめかされており、読者の関心を引きつけます。
  • 大手メディアとの対比
    週刊誌など既存の大手メディアと自由度の高いYouTubeニュースとの対比が鮮やかに描かれています。
  • 練られた伏線回収
    オムニバス形式で進行する各エピソードの中、最終章の「医療過誤」エピソードは序盤の小さな示唆がすべてつながり、読み応えがあります。
  • 魅力的な仲間たち
    社会的に弱い立場に置かれた人々を次々とチームに迎え入れ、その絆が深まっていく展開が心地よいです。

気になった点

  • YouTuber描写の古さ
    一昔前の「炎上してなんぼ」という感覚が残っており、現在のプラットフォーム運営(BAN規制やコミュニティガイドラインなど)を反映し切れていない印象があります。
  • 配信形式の不明瞭さ
    本作では「ライブ配信なのか編集動画なのか」が明示されておらず、どのようにニュースを配信しているのか把握しづらいです。
  • 展開のおとなしさ
    現実の暴露系YouTubeでは思いもよらない急展開が起こることが多いですが、本作は比較的穏やかなストーリー運びにとどまっています。

オススメ度

7.3点(10点満点中)

YouTube運営やニュース報道に興味がある方には特におすすめの一冊です。既存メディアとの対比や、人と人とのつながりを重視した物語をお楽しみください。

ブレイクニュース (集英社文庫)

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【読書感想】『バリ山行』|危険なのは山か社会か―バリエーションルートに魅せられた山男を描く【松永K三蔵】

松永K三蔵さんによる芥川賞受賞小説『バリ山行』を読みました。感想をご紹介します。

本作は、“バリエーションルート”、通称「バリ」と呼ばれる、登山道として整備されていないルートに挑む主人公を描いた物語です。建設会社勤めの平凡なサラリーマンが次第に山の魅力に囚われ、登山にのめり込んでいく姿に引き込まれます。

魅力的だったポイント

山と町、どちらが危険か?

作中では主人公が仕事と山の危険性を比較する場面があり、読者に「どちらがより大きなリスクをはらんでいるのか」と問いかけます。職場の人間関係や仕事、家族からのプレッシャーと、山の自然環境が見せる脅威とを対比させる演出が深く考えさせられました。

不気味な山の先輩の存在感

バリ登山の先輩・妻鹿(めが)の描写が秀逸です。彼の私生活には謎が多く、言動の端々から漂う不穏さが物語全体に緊張感を与えています。

リアリティあふれる下山後の描写

下山直後、自宅で泥まみれの服を脱ぎ捨て、洗濯かごに放り込むシーンなどは、一字一句にまでこだわった筆致によって、汗や土の匂いを感じる描写になっていました。その臨場感に圧倒されました。

山に魅せられる心情の共感性

山登りの中毒性や、自然がもたらす開放感、達成感がリアルに伝わってきます。登山に夢中になる人の気持ちが手に取るようにわかり、共感を誘います。

令和版『孤高の人』の趣

山岳小説の名作『孤高の人』を思わせるストイックな雰囲気が漂いつつも、現代的な視点や家族との関係性が加わっている点が新鮮でした。

気になった点

家族の描写が物足りない

主人公を支える妻や家族の描写がそれほど深くないため、山に出かける際の背後にある感情的な葛藤や支え合いが感じづらく、物語における家族の重要性が薄く感じられました。

妻の設定にやや都合を感じる

主人公の妻は働きながら子育てをこなし、夫の山行をあまり咎めない寛容さを見せます。しかし、その寛大さが物語を進めるうえでの便宜的な設定にも思え、もう少し深い掘り下げがあっても良かったと感じます。

おすすめ度

8.0点(10点満点中)

全体を通して長すぎず、一気読みしやすいボリュームです。

自然描写や登山のリアルさをじっくり味わいたい方、身近に登山好きがいる方には特におすすめ。山の魅力と、人間社会でのドラマが複雑に交錯する一冊です。

Header: Marjon BestemanによるPixabayからの画像

【Illustrator・Photoshop対応】『はじめてのAIデザイン』書評|Adobeユーザー向け生成AI入門書!【作例付き】

『はじめてのAIデザインー生成AIを用いた新しいデザインの作り方』という本を購入しました。

Adobeソフトで画像生成AIを使いこなすための基礎から応用まで勉強になる素晴らしい一冊でしたので、私なりの感想をまとめました。

はじめてのAIデザイン 生成AIを用いた新しいデザインの作り方

はじめてのAIデザイン 生成AIを用いた新しいデザインの作り方

ingectar-e
2,079円(04/28 03:47時点)
発売日: 2025/03/27
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本書を買った理由

私が講師をしている専門学校で生成AIについての授業をしたいと思い、自身の理解を深めるために購入。

IllustratorやPhotoshopなどAdobeソフト上での画像生成AIに特化して、かつわかりやすく解説された本を探していたところ、本書に出合いました。

良かった点

  • 豊富な作例
    チラシやバナーなど実践的なサンプルが多数掲載され、デザイナー視点で書かれているため、すぐに取り入れられる内容でした。
  • AIの仕組み&著作権
    Adobeの生成AIの総称である「Adobe Firefly(ファイアフライ)」の基礎知識から、Illustrator、Photoshopとの違い、著作権まわりの仕様まで網羅。安心して商用制作に活用できます。
  • プロンプト後の調整テクニック
    これまで「プロンプトを入力→アウトプット」という流れしか知らなかった私ですが、本書では出力後のイラストのトーンや色の調整など、細かなカスタマイズ方法が丁寧に解説されています。
    設定項目が思っていた以上に多彩で、表現の幅が大きく広がる手応えを感じました。
  • クレジットについて
    Fireflyで生成AIを制作する際には「クレジット」という単位が必要になります。その「クレジット」の消費量や確認方法、リセットのタイミングについても紹介されていて、助かりました。

作例紹介

本書の内容を参考に私が生成したAI画像をいくつかご紹介します。

※詳しい作り方はぜひ本書を手に取ってご確認ください!

景色

桜並木の街並み

このような風景イラストがテキストを入力するだけで描き出せます。

Illustratorではベクターデータで描き出せるので拡大・縮小も自由です。

被写体

黄色いあひるのおもちゃ

キャラクターや動物も描けます。

アイコン

ドローン

インフォグラフィックスやUIデザインで使えそうなアイコンも描けます。

線画からのイラスト化

うさぎの顔のイラスト

幾何学図形を組み合わせたパスを選択し、「生成塗りつぶし」をすることで、パス内にうさぎの顔のイラストを描くことができます。

生成パターン

カラフルなチューリップの模様

Illustratorでは同じ模様をタイル状に繰り返し配置する「パターン」機能があります。

生成AIとパターン機能を組み合わせた「生成パターン」を使うとこのような繰り返し模様が簡単に描けます。

もちろん、パターンオブジェクトになっているので拡大・縮小も自在です。

水彩画風の模様

水彩画風のさくらんぼの模様

Fireflyではより細かく設定を調整できるので、このような水彩画風のイラストを描くこともできます。

テクスチュアのあるタイポグラフィ

赤い風船のテクスチュアの文字

文字にテクスチュアを追加することもIllustratorとFireflyを使うと簡単にできます。

タイトルデザインに非常に役立ちそうですね!

授業の感想

早速、学校の授業で本書の内容を取り入れてみました。

  • 学生の現状
    Adobe CC契約者は多いものの、生成AI機能を本格的に使いこなしている学生はまだ少数。ですが、本書を参考に授業を進めたところ、初めてでも楽しみながら高品質なグラフィックを制作してくれました。
  • 若い感性の素晴らしさ
    私の想像を超えるプロンプトの組み合わせから生まれるビジュアルに、学生の自由な発想力を改めて実感しました。
  • 期待と不安の声
    「こんなに簡単にクオリティの高いイラストが描けるのは、ある意味ちょっと怖い……」という意見も多く、AIとデザイナーのこれからの共存について、リアルに考えるきっかけになりました。

まとめ:本書をおすすめしたい人

  • デザイン学校で講師をされている先生
    →生成AIの最新事情をカリキュラムに取り入れる際のマニュアルとして最適。
  • デザインを学ぶ学生
    →AIを使った制作スキルをポートフォリオに加え、表現力を高めたい方に。

正直、デザイン学校の教科書として使用しても良いほど、基礎から応用まで丁寧にフォローされた一冊です。

AI技術を取り入れて、表現の幅を広げたいすべてのデザイナー&学生にぜひ手に取っていただきたいと思います!

はじめてのAIデザイン 生成AIを用いた新しいデザインの作り方

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【読書感想】『カフネ』|料理がつなぐ、2人の女性の再生の物語【阿部暁子】

2025年の本屋大賞を受賞した話題作『カフネ』
読み始めたら止まらず、一気に読了しました。とにかく面白い。そして、心に優しく染み入る物語でした。

『カフネ』阿部暁子(著)

あらすじ

最愛の弟が急死した。29歳の誕生日を祝ったばかりだった。姉の野宮薫子は遺志に従い弟の元恋人・小野寺せつなと会うことになる。….

Amazonより引用

魅力的な主人公たち

主人公の薫子とせつなは、どちらも“スパッとした”性格の持ち主。
物言いはハッキリしていて、行動も潔い。そんな彼女たちのやりとりがとにかく魅力的で、ページをめくる手が止まりません。

キャラの立ち方が抜群で、会話のテンポや空気感に引き込まれました。

食と人生の交差点

物語の前半では、せつなが腕をふるう料理の描写が印象的。
ただの料理シーンではなく、丁寧な調理過程や食材の描写が生き生きと描かれていて、読んでいるだけで食欲が刺激されます。

中でも、ある「肉を食べるシーン」は強く印象に残りました。五感をフルに使って描かれていて、臨場感がすごい…!

本作では「食べること」がテーマの中心に据えられており、料理を通して心が癒やされていく様子が丁寧に描かれています。
“料理が人を救う”というメッセージが静かに、しかし力強く伝わってきました。

後半の展開と感動のクライマックス

物語後半では、さりげなく散りばめられていた伏線が回収され、ミステリー的な面白さも加速。
そしてクライマックスの食事シーン——ここは本当に素晴らしかったです。
優しさと愛情が詰まった描写に、自然と涙がこぼれました。

登場人物たちの“生”が響く

主役だけでなく、脇役たちもそれぞれにクセがありながら、皆懸命に生きている。
嫌なキャラクターが一人もおらず、読後感もとても良かったです。

人生の痛みや孤独、再生のきっかけを、静かにそして確かに描いた物語。
2025年の本屋大賞受賞もうなずける、心に残る一冊でした。


こんな人におすすめ

  • 美味しいものが好きな人
  • 料理に癒されたい人
  • 人生に挫折を感じた経験がある人
  • 静かな感動に浸りたい人

オススメ度

9.5点(10点満点中)

生きる力をもらえる物語です。ぜひ読んでみてください!

『カフネ』阿部暁子(著)

Header: Mansour ObaidiによるPixabayからの画像

【読書感想】『おいしくて泣くとき』|二つの物語が交わる、食と運命の温かな奇跡【森沢明夫】

森沢明夫さんによる小説『おいしくて泣くとき』を読みました。

食をテーマにした心温まる物語でしたので、感想をご紹介します。

おいしくて泣くとき

あらすじ

無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。
店のオーナーの息子・心也は、怪我で大好きなサッカーができなくなり、中学最後の夏休みを前に晴れない気持ちを持て余している。
また心也は、時々こども飯を食べにくる同級生のことを気にしていた。
一人は夕花。クラスから疎外され、義父との折り合いも悪い。もう一人は金髪パーマの不良、石村。
友情と恋心、夏の逃避行。大人たちの深い想い。

Amazonより引用

二本立ての物語

本作は、カフェのマスターと大衆食堂オーナーの息子という、一見全く異なる環境に生きる二人の主人公を軸に、二つの物語が同時進行で展開されます。初めは各々が独立したストーリーとして面白さを放っており、どう絡み合うのかという期待感を自然と抱かせます。

意外な伏線の回収

物語が進む中で、巧妙に散りばめられた伏線がクライマックスで一気に回収され、驚きと納得が同時に押し寄せる構成になっています。この展開は、非常に印象深く、物語全体への没入感を一層高めました。

交差する運命と温かな結末

二つの物語が交差した後の展開は、真実が明らかになると同時に、心温まるエピソードが次々と紡がれ、感動を呼び起こします。各登場人物がそれぞれの立場で成長し、運命が交錯する様子が丁寧に描かれています。

食事がもたらす奇跡

また、作中では「食事」というテーマが重要な役割を果たしており、食を通して人の心や人生が大きく変わる様子が巧みに表現されています。料理が持つ温もりや力強さが、物語全体に深い余韻を与え、読後の余韻を一層豊かなものにしています。

総評

全体を通して、驚きと感動に満ちた本作は、ストーリーテリングの巧妙さと登場人物たちの成長を実感させる作品です。読後、心に残る温かさとともに、食事の持つ不思議な力に改めて思いを馳せるひとときを味わうことができました。

オススメ度

8.8点(10点満点中)

「食」にまつわる心温まる物語を読みたい方やボーイ・ミーツ・ガールの物語が好きな方にオススメです!

おいしくて泣くとき