[読書感想]「ヘヴン」川上未映子|凄惨ないじめの物語。クライマックスの展開に作者ならではの斬新さを感じた

黄色い家を読んで以来、川上未映子さんの小説が気になり、どんどん読んでいます。

今回は初期の方の作品「ヘヴン」の感想です。

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

川上未映子
682円(04/26 16:30時点)
発売日: 2012/05/15
Amazonの情報を掲載しています

今回もAudibleでの読書です。

あらすじ

<わたしたちは仲間です>――十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える<僕>は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。

Amazonより

感想

それぞれ、別の加害者からいじめを受けている男女の中学生が主人公。

主人公たちが受けるいじめの描写がかなり凄惨で、加害者への怒りが湧いてきます。

途中、いくつか伏線?とも思われる内容が出てくるのですが、わりと回答されないまま、謎を残したまま終わったので、読後に「あの伏線どうなったっけ?」と思うこともありました。

しかし、現実の世の中でも気になっても結末が良くわからない出来事など、無数にあるので、全てを気にすることは意味がない、という作者なりのメッセージなのかもしれないと感じました。

最後、加害者への報い方が良くある展開ではなく、この作者ならではの斬新さを感じる展開で「おお!」と思いました。

大人になると、子供の頃は楽しかったな、とか子供の頃に戻りたい。

とか思うこともあるけど、子供には子供なりの残酷な世界があったことを、本作を読んで思い出しました。

満足度

80点/100点満点

後半にいくにつれて展開が気になり、止まりませんでした。

ヘヴン (講談社文庫)

ヘヴン (講談社文庫)

川上未映子
682円(04/26 16:30時点)
発売日: 2012/05/15
Amazonの情報を掲載しています

Header: Sourabh yadavによるPixabayからの画像

[読書感想]「川のほとりに立つ者は」寺地はるな|人の本性はどこにあるのか?境遇、特性、思い込みなど、人の見方を教えてくれる良作

寺地はるなさんの小説「川のほとりに立つ者は」Audibleで読みました。

この著者の作品は初めて読んだのですが、要所要所に印象に残る文章があり、他の作品も読んでみたくなりました。

川のほとりに立つ者は

川のほとりに立つ者は

寺地はるな
1,520円(04/27 07:22時点)
発売日: 2022/10/20
Amazonの情報を掲載しています

あらすじ

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

Amazonより引用

感想

男女2人の主人公による視点で物語が展開されるミステリー。

メインは女性の主人公、原田清瀬です。

彼女、彼が出会う人たちについて、はじめに抱いていた印象から、その人々の境遇、特性が明らかになるにつれて、別人かのように印象が変わっていく様子が劇的で、読者としても主人公の気持ちの変化を追体験できました。

女性主人公は正しさにこだわる人物として描かれていますが、ただその正しさから取った行動も、立場や視点を変えると過ちに見える時もあります。

物語の後半、主人公とある人物との対話の中で、完全な良い人と悪い人がいるのではなく、置かれた状況やタイミングによって、良い悪いを行き来するのが人間である、という意味の言葉に非常に胸を打たれました。

タイトルの意味も物語の後半で判明するのですが、とても詩的な表現で、この作家さんは独特な言葉選びをされるんだな、と印象に残りました。

長い物語ではないですが、面白くて一気読みしました。

満足度

80点/100点満点中

興味深いテーマなので、もう少しボリュームがあったら良かったと思いました。

川のほとりに立つ者は

川のほとりに立つ者は

寺地はるな
1,520円(04/27 07:22時点)
発売日: 2022/10/20
Amazonの情報を掲載しています

Header: StockSnapによるPixabayからの画像

[読書感想]「黄色い家」川上未映子|”お金とは何か?”を個性的なキャラクター達の必死な生き様を通して描く傑作社会派ミステリー!

川上未映子さんによる小説「黄色い家」Audibleで読みました。

お金や人間について考えさせられる非常に面白い作品だったので感想を紹介します。

黄色い家

黄色い家

川上未映子
2,048円(04/26 21:18時点)
発売日: 2023/02/25
Amazonの情報を掲載しています

あらすじ

2020年春、惣菜店に勤める花は、ニュース記事に黄美子の名前を見つける。
60歳になった彼女は、若い女性の監禁・傷害の罪に問われていた。
長らく忘却していた20年前の記憶―黄美子と、少女たち2人と疑似家族のように暮らした日々。
まっとうに稼ぐすべを持たない花たちは、必死に働くがその金は無情にも奪われ、よりリスキーな〝シノギ〞に手を出す。歪んだ共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解へ向かい……。
善と悪の境界に肉薄する、今世紀最大の問題作!

Amazonより引用 – https://amzn.to/3V1VVOU

面白かった点

登場人物がとても魅力的!

主人公の花、不思議なお姉さんとして描かれている黄美子さん、友達の蘭や花、裏社会とつながりのあるヨンスさんやヴィヴィアンなど、登場人物のキャラクターが非常に個性的で立っています。

どのキャラも、完全な善人でもないし、かといって完全な悪人でもない。

必死に生きていくなかで善と悪の間を揺れ動いているように描かれていて、人間臭さを感じました。

周りの登場人物たちは色恋沙汰が多いのですが、主人公の花にはそういったエピソードはなく、ひたすらお金と向き合っている感じが良かったです。

花と関わる大人たちは、置かれた境遇から裏の職業に手を染めているが、彼女/彼たちも望んでおこなっていないということがわかります。

ヨンスさんやヴィヴィアンは、ナレーションの方の声の出し方も相まって子供から見た得体の知れない大人の格好良さが上手く演出されています。

お金について考えさせられる

本作のタイトルは黄色い家、黄色は金運の象徴です。

生きるために必死でお金を得ようとする登場する人物たちの言葉を借りて、改めて「お金とは何か?」という問いが物語の中で何度も提起されます。

クレジットカードについての説明も、自分が普段何気なくクレカを使っていますが、小説の中で改めて仕組みを説明されると、そういえばそういうものだったよな。と気づきました。

高校生くらいの若い人が読んだら、お金の勉強になって良いのではないかと思いました。

90年代の時代性

メインのストーリーが展開されるのは90年代の初期なので、X-JAPANや阪神淡路大震災、ポケベルなど、当時の時事ネタが散りばめられています。

私もこの時期に10代だったので作中に登場するワードに非常に懐かしさを感じました。

緊迫感の中のユーモア

また、ストーリー自体はかなり殺伐としているのですが、キャラクター同士の掛け合いや花のタフな思考回路などで、緊迫感のある中でもユーモアを感じるシーンが多いです。

重苦しくなりすぎずエンタメ作品として楽しめました。

後半の怒涛の展開

前半は結構ゆっくり進むので、わりとのんびりした話しなのかな?と思っていたのですが、花と黄美子さん、蘭や花が檸檬の営業をスタートしたくらいから、面白さが加速します。

花は銀行口座を持っていないために全資産を現金で所持しています。

物語の中で定期的に持っているお金を数えるシーンがあるので、読んでいる読者としても、花の持っているお金が多いときは安心し、ストーリーが展開していく中でどんどんお金が減っていくと、花の焦りとシンクロして読んでいる方もハラハラしていきます。

後半、花と黄美子さんが分かれるシーンはとてもドラマチックでした。

とりわけ、蘭と桃が花を説得するときの、花の受け答えに非常に胸が痛みました。

花は人並み以上に、一生懸命頑張って生きているのに、自分自身も周囲の大切な人もどんどん追い詰められていく様が壮絶であり、リアリティを感じました。

著者のインタビュー

このインタビュー記事を読んでさらに作品への理解が深まりました。

作家・川上未映子の死生観と「お金」への思い──「お金は生死のルールを超越していると見せかける」 | Vogue Japan
https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/mieko-kawakami-sisters-in-yellow-interview

著者の川上未映子さんも実際に夜の世界でお仕事をされていたようで、だからこそこの作品の人物描写はリアリティがあるのか!と納得しました。

まとめ

本作はキャラクター達の必死な生き様、それでもどうにもならなさのある人生、その描き方が素晴らしい傑作です。Audibleのナレーターの方の上手さもあり、後半は泣いてしまいました。

ぜひ多くの方に読んでいただきたいですし、今後映像化されたら嬉しい作品です。

満足度

98点/100点満点中

黄色い家 Kindle版

黄色い家

黄色い家

川上未映子
2,048円(04/26 21:18時点)
発売日: 2023/02/25
Amazonの情報を掲載しています

Header: Bente JønssonによるPixabayからの画像

[読書感想]「未来」湊かなえ/「爆弾」呉勝浩/「可燃物」米澤穂信|Audibleはナレーションの印象もかなり大きい!

最近Audibleで読んだ小説の感想を軽く書いていきます。

Audible」は無料体験を実施しています!

「未来」湊かなえ

未来

未来

湊かなえ
790円(04/26 11:36時点)
発売日: 2018/05/22
Amazonの情報を掲載しています

未来の自分からの手紙をきっかけに展開される壮大な物語。

多くの人物が登場するので、章ごとの人間関係を把握するのが大変だったのですが、理解すると伏線が繋がったような気持ちになりゾクっとしました。

後半で、未来からの手紙を誰が書いたかを明かすシーンが一番印象に残りました。

全て読み終わったあと、著者のあとがきを読んで、児童の貧困問題をテーマにしたと知って深く納得しました。

Audible版、のんさんのナレーションは自分は良かったと思いました。

映画やドラマになったら面白そうですが、絵がない小説だからこその仕掛けもあるので、悩ましいですね。

湊かなえ作品は、その昔、「告白」を映画で観てとても印象に残っており、この作品も読んでみようと思いました。また他の作品も追ってみたいと思います。

満足度:88点/100点満点中

「爆弾」呉勝浩

爆弾

爆弾

呉勝浩
1,260円(04/26 11:36時点)
発売日: 2022/04/20
Amazonの情報を掲載しています

些細な傷害事件で逮捕された中年男・鈴木田吾作はいわゆる無敵の人。取り調べを受ける中で「東京中に爆弾を仕掛けた」と供述し、取調室で、現場で、さまざまな警察官が事件に巻き込まれていく物語。

「正しさとは何か?」を問うているシーンも多く、以前読んだ「正欲」にも通じるテーマがあると考えました。

Audible版は鈴木田吾作が思いっきり「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造で、始めは内容よりもそれが気になってしまいました。

不快感はかなりありましたので、そういう意味では制作側の狙い通りでしょうか。

ラストは、もう少しスッキリする感じが欲しかったです。

途中で登場する女性の新人警官が結構面白い性格だったので、もう少し活躍が見たかったです。

満足度:75点/100点満点中

「可燃物」米澤穂信

可燃物 (文春e-book)

可燃物 (文春e-book)

米澤 穂信
1,800円(04/26 11:36時点)
発売日: 2023/07/25
Amazonの情報を掲載しています

Audibleのサイトで人気と表示されていたので読んでみました。

作品のファンの方、申し訳ありません。

爆弾に引き続き、警察物を立て続けに読んだからなのか、自分のコンディション的な問題なのか、最後まで聴いたのですが、あまり内容が入ってきませんでした。。。

ナレーターの方の声も、渋くてかっこいいのですが、抑揚が少ないので淡々としていた印象。

作品のレビューを見てみると、一人の警部を主人公としながらも、5つの短編をまとめた短編集だったようです。

どうりで、初めのスキー場のエピソードと最後の可燃物のエピソードがリンクしてないように感じたわけだ。。。

完全に自分の集中力不足だったので、また調子の良い時に聴き直してみたいと思います。

満足度:ー(今回は評価できるほど読めていないので)

まとめ

Audibleは、小説自体の内容に加えてナレーションの印象もかなりありますね。

引き続き、色々な作品を読んでいきたいと思います。

Audible」は無料体験を実施しています!

Header: 👀 Mabel Amber, who will one dayによるPixabayからの画像

[読書感想]「汝、星のごとく」凪良 ゆう|閉鎖的な人生を打破しようと足掻く、二人の創作者の物語

凪良 ゆうさんの小説「汝、星のごとく」をAudibleで読みました。
感想をご紹介します。

あらすじ

その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。
ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。
ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

Amazon.co.jp: 汝、星のごとく 電子書籍: 凪良ゆう: Kindleストア

エグいバクマン

主人公の一人、櫂は漫画原作者として成功して島を出て東京で暮らします。
その過程で都会やビジネス、出会う人やお金によって変わっていきます。
昔人気だった、漫画家を描いた少年漫画「バクマン」をよりリアルに、救いようがない感じにした作品だと思いました。

バクマン。 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

バクマン。 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

大場つぐみ, 小畑健
460円(04/26 08:43時点)
発売日: 2009/01/05
Amazonの情報を掲載しています

暗い描写が長く続く

二人の主人公、特に暁海の方にはひたすら悲惨な展開が訪れます。
その展開が長いので、真綿でじわじわと首を絞められる感じで、途中は読んでいてかなり重い気持ちになりました

登場人物にヘイトが集まったところでバチが当たる展開

本作はどんな登場人物をも、善としても悪としても描いていないので、良いことが続き、調子に乗っていたキャラクターに対して読者がだんだん嫌な印象になってきたところで天罰のように落とす展開が入ります。

サブキャラに共感

主人公2人と先生は物語上バフがかかってる印象があり、結構ファンタジック(ご都合主義?)とも言える出来事が起こります。
それよりも、暁海と櫂の親や、櫂の相棒の漫画家、編集の人や暁海の刺繍の先生(瞳子さん)などには、わりとリアリティがある感じで、成功や苦難が訪れるので、私はサブキャラクターの方により共感をしました。

物語の終わり方の難しさ

途中まで、衝撃的な展開の連続でかなり物語の風呂敷を広げていくので「この話はどうやって終わるのだろうか?」と不安になるのですが、後半になるにつれて、良い意味でも悪い意味でも物語が収束していくので、最後はうまくまとめた、という印象になりました。
何が正解か、は作者が決めれば良いと思うのですが、物語の終わり方って難しいと感じました。
ですが、「汝、星のごとく」という本作のタイトルを最後に回収するシーンがあるのですが、そこは非常に良くて、鳥肌が立ちました

一番印象に残ったシーン

本作で一番印象に残ったのは、暁海が閉鎖的な島の生活の中で刺繍と出会い、雑誌に掲載されていたパリのメゾンに想いを馳せるシーンです。
私の頭の中に、その情景が浮かんで、アート(作品制作)によって閉鎖的な自分の人生が変わり、世界と繋がっていくような、非常にドラマチックな描写でした。

まとめ

この感想を書いていて思ったのですが、本作は二人の主人公の人生や愛憎を描きながらも、ものづくり「クリエイティブ」について描いているのかもと思いました。
櫂を支える二人の編集者もそれぞれ矜持があってとても魅力的です。
重い物語ですが、創作活動によって世界を広げる、「クリエイティブ」の力を感じさせられました。

満足度

83点/100点満点中

長い物語なので、読後の満足感はすごいです。

汝、星のごとく

汝、星のごとく

凪良ゆう
1,705円(04/26 21:19時点)
発売日: 2022/08/04
Amazonの情報を掲載しています

Header: Rene TittmannによるPixabayからの画像