[読書感想]「サクラサク、サクラチル」辻堂ゆめ(著)|受験、虐待、毒親、ネグレクト…シリアスな人生に抗う2人の高校生を丁寧に描いた青春ミステリー

辻堂ゆめさんの小説「サクラサク、サクラチル」をAudibleで聴きました。

あらすじ

「絶対に東大合格しなきゃ許さない」――両親の熱烈な期待に応えるため、高校三年生の高志は勉強漬けの日々を送っていた。そんなある日、クラスメートの星という少女から、自身をとりまく異常な教育環境を「虐待」だと指摘される。そんな星もまた、自身が親からネグレクトを受けていることを打ち明ける。心を共鳴させあう二人はやがて、自分達を追い詰めた親への〈復讐計画〉を始動させることに――。教室で浮いていた彼女と、埋もれていた僕の運命が、大学受験を前に交差する。驚愕の結末と切なさが待ち受ける極上の青春ミステリー。

Audible版『サクラサク、サクラチル 』 | 辻堂 ゆめ

面白かった点

受験や、毒親、虐待、ネグレクトなどシリアスなテーマを扱っていますが、読後の印象は爽やかで、素敵な青春の物語です。

ボリュームも長すぎず、短すぎず、ちょうど良い感じでした。

高志と星さんが計画する親への〈復讐計画〉が何なのか。また、高志の東大受験の行末や星さんの家庭で起こる事件など、基本のストーリーはシンプルですが、起きる展開が起伏に富んでいて、一気に聴き終えてしまいました。

主人公、高志と星さんの心の距離感、近づきすぎず、離れすぎず、という感覚も絶妙で、物語としての面白さはありつつご都合主義に見えないバランス感も上手いと思いました。

惜しかった点

惜しかった、というわけではないですが、主人公の高志や星さんが受ける虐待の描写が結構リアルで、Audibleだとナレーターさんの上手さも相まって、衝撃度が強いので、読み進めるのが辛い気持ちになる方もいるかもしれません。

まとめ

とにかく、結末の印象が良く、「良い小説を読んだなぁ」と満足感が高かったです。

青春の物語で、気軽に読める小説を探している方にオススメできる作品です。
ドラマやアニメ化したら映えそうな作品だと思いました。

満足度

83点/100点満点中

書籍版

サクラサク、サクラチル Kindle版

サクラサク、サクラチル

サクラサク、サクラチル

辻堂ゆめ
1,722円(05/07 20:15時点)
発売日: 2023/07/26
Amazonの情報を掲載しています

[読書感想]「新!店長がバカすぎて」書店員が織りなすドラマ!個々のキャラクターを深掘りした人気作の続編

早見和真さんによる、書店員のドタバタを描いた小説「店長がバカすぎて」の続編「新!店長がバカすぎて」が、Audibleに来ていたので聴きました。

前作を読んでみて、作品内で展開されるキャラクター同士の軽快なやり取りが気持ちよく、気軽に読める小説だったので、続編となる今作も読んでみました。

感想

基本的には、前作の延長線上にあるストーリーなので、前作が気に入った方には楽しめると思います。
私がこの作品が好きだと思うポイントは、やはり本屋さんを描いているところです。
自分も子供の頃から本や、本屋さんが好きでした。
ただ、本屋さんでバイトをしたり、就職の候補として検討したことは無かったので、この小説を読むと今更ながら、本屋さんへの憧れが生まれます。(作品にはその大変さも描かれていますが…..。)

前作で、本屋さんという職業の特性はかなり描いたからなのか、続編となる本作「新!店長がバカすぎて」では個々のキャラクターにより焦点が当たっている印象です。

十分面白いのですが、もう少し書店員というお仕事自体を描く割合が多い方が個人的には嬉しいかも、と思いました。

好みが分かれそうな点

また、好みが分かれそうな点として、前作も同様なのですが、タイトルや各章のタイトルにかならず、「〇〇がバカすぎて」という言葉が入ります。
どうしても、何かをバカにするフォーマットになるので、そこが引っかかる方もいるかも、とは思いました。

Audibleのナレーションは、作品の楽しさが伝わってくるので合っていると思います。

世界観などは好きなので、次回作も出たら読んでみたいと思います。

満足度:78点/100点

Audibleは無料体験ができます

話題の本を料金内で何冊も読めるのは非常にお得だと思います。
Audibleは無料の体験もありますので、気になった方は以下のバナーからぜひ体験してみてください。

Kindle版

新! 店長がバカすぎて Kindle版

Heade: djedjによるPixabayからの画像

[読書感想]「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」ろう者の世界を描いた傑作、だが残念な点も

丸山 正樹さんによる小説「デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士」をAudibleで聴きました。

あらすじ・解説

今度は私があなたたちの“言葉”をおぼえる
仕事と結婚に失敗した荒井尚人。いまの恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一の技能を活かして手話通訳士になる。
あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。現在と過去、二つの事件の謎が交錯をはじめ……。
マイノリティの静かな叫びが胸を打つ、感動の社会派ミステリー。シリーズ通して読み継がれるロングセラーです。
©丸山 正樹 (P)2023 Audible, Inc.

https://www.audible.co.jp/pd/%E3%83%87%E3%83%95%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A9%E3%82%A4%E3%82%B9-%E6%B3%95%E5%BB%B7%E3%81%AE%E6%89%8B%E8%A9%B1%E9%80%9A%E8%A8%B3%E5%A3%AB-%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%AA%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF/B0C9T9PLLV?action_code=ASSGB149080119000H&share_location=pdp

感想

(以下、内容ネタバレも含みます)

手話通訳士の主人公の視点から、ろう者の世界を描いた作品。
ろう者の世界の描き方だとても詳細で、私はこれまでほとんどこの世界を知らなかったので、非常に勉強になりました。
手話にもいくつかの種類があったり、ろう者の方が社会の中でどう生活しているか、ということも丁寧に描かれており、興味深く、止まらずに聴き進めました。

主人公の生まれ育った家庭環境や、現在直面している家族の問題など、作品の軸にあるコンセプトが「家族」である点は、共感がしやすかったです。

Audible版で良かった点

ナレーターの方が読み上げてくれるAudible版で良かったことは、ろう者が発するデフ・ヴォイスという言葉を、恐らく、実際に近い発声で読み上げてくれるところです。

文字だけの小説だと、デフ・ヴォイスの音は自分で想像するしか無いと思うので、Audibleで聴く読書をすることで、よりリアリティのある読書体験ができました。

ナレーションは非常に合っていたと思います。

残念だった点

以下はかなりのネタバレになってしまいますが、残念だった点。

ある事件をテーマにしているのですが、その事件のきっかけ、犯人の犯行の動機が「幼い頃に性的虐待を受けていた」ということです。
たまたま、この作品の前に読んでいた別の作品でも、全く同じ様な犯行動機だったので、自分の読書の問題もあるのですが

「またこの動機か….」

と思ってしまいました。

決して性的虐待を軽んじているわけではなく、

幼い頃に性的虐待を受けていた犯人→虐待加害者を殺害→犯人が全て悪かったわけではない

という展開が、ミステリーの犯行動機のよくあるパッケージの様になっていて、
手話やろう者の描き方の丁寧さと比べると、事件の展開は少し深みにかけると思ってしまいました。

犯人が女性だった点も、「冷蔵庫の女」的なストーリーラインと近い印象で、少し残念でした。

「冷蔵庫の女」とは、批評概念の一種で、男性キャラの成長のために彼女や妻、親しい女性が殺される事象を指す。もともとは1999年にアメコミファンのグループによって作られたウェブサイト上で、男性キャラの保護欲を刺激するためや、男性キャラのストーリーを前に進めるために、女性キャラの殺害、負傷、レイプが頻繁に使われてきたことを指摘したことに端を発している。

映画の中で都合よく殺される女性キャラ『冷蔵庫の女』について考える。なぜ、「女が」「死ぬ」? | ヨガジャーナルオンライン

無理に刑事事件ものにする必要はあったのか….。

ろうの世界の描き方は秀逸で、非常に勉強になる作品なので、知的好奇心を満足させてくれる小説です!

満足度:85点/100点

Audibleは無料体験ができます

話題の本を料金内で何冊も読めるのは非常にお得だと思います。
Audibleは無料の体験もありますので、気になった方は以下のバナーからぜひ体験してみてください。

Kindle書籍

Header: MoondanceによるPixabayからの画像

最近Audibleで聴いた本/ハンチバック、店長がバカすぎて、六人の嘘つきな大学生、など

最近Audibleで聴いた本をご紹介します。
それぞれの本の感想の最後に、個人的な満足度を100点満点で入れています。

ハンチバック/市川沙央(著)

第169回芥川賞受賞作品。
障がいを持った当事者による描写は非常にリアリティを感じました。
2時間以内で聴ける短さなので、次は同著者のもっと長いストーリーも読んでみたい!

満足度:80点

店長がバカすぎて/早見和真(著)

二〇二〇年本屋大賞ノミネート作。
吉祥寺の書店に務める女性店員の視点で描かれた、コメディ作品。
書店にまつわる様々な立場の方が登場し、色々な事件を起こしていきます。
ナレーションの方も非常に上手で、ストレスなく、気楽に聴ける名作です。
ちょっと謎解き的な展開があるのも面白いですね。
続編もあり、現在聴いています。

満足度:78点

六人の嘘つきな大学生/浅倉秋成(著)

とある大手ベンチャー企業の就職試験、最終面接に残った6人の、最後の試験で起きた事件を描いたミステリー作品。
就職試験や就職活動に対する視点や、人間の持つ表と裏など読みやすいストーリーの中に普遍的な内容が込められていて非常に面白かったです。
ドラマやアニメになっても面白そうな作品!

満足度:85点

法廷遊戯/五十嵐律人(著)

法律家を目指す2人の学生の身に起きた、過去から現在につながる事件を描写した作品。
タイトルからわかるように、裁判ものです。
2023年11月に実写映画が公開されるのでそちらも見てみたいと思いました。

満足度:75点

Audibleは無料体験ができます

話題の本を料金内で何冊も読めるのは非常にお得だと思います。
Audibleは無料の体験もありますので、気になった方は以下のバナーからぜひ体験してみてください。

Header: Felix LichtenfeldによるPixabayからの画像

最近読んだジェンダー本/ジェンダー表現ガイドブック、僕の狂ったフェミ彼女、82年生まれ、キム・ジヨン

最近読んだジェンダーやフェミニズムにまつわる本をご紹介します。

韓国の小説が面白くてハマりそうです。

失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック

失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック

よく観ているAbemaPrimeニュースで特集されていて気になったので購入しました。

新聞社に勤める方々がまとめた大手メディアによるジェンダー表現の注意点と良くない事例集。

ネットニュースなどでPVを稼ぐためにつけられる見出しを、傾向別に分類・分析していて、その細かさにさすが新聞社の方が書いているだけあるな、と感じました。

読み応えがあります。

僕の狂ったフェミ彼女

僕の狂ったフェミ彼女

最近話題になっている韓国の小説。タイトルと内容を簡単に説明すると、男性視点の物語で、彼女がフェミニストになったストーリーです。

文体が軽いのでライトノベルの様にサクサク読めますが、内容はかなりシリアスです。

韓国では実写ドラマ化の話も進んでいる本作品。Netflixでドラマ配信されたら是非観たいです!!!

82年生まれ、キム・ジヨン

韓国でベストセラーとなり、日本でも大ヒットしているフェミニズム小説。

女性が社会で働くというのはこれほど様々な壁があるのか、と、自分の知識の無さを実感させられる内容。

女性が主人公の話ですが、第三者視点で描かれており、韓国の歴史や制度の話も丁寧に織り込んでいるのでドキュメンタリー性も高いです。

韓国では本書を読んだ男性が衝撃を受けて、同じ男性に勧める事例も多いとか。非常気持ちがわかります。

働く男性にも特に読んで欲しい1冊!


こういったフェミニズムやジェンダーの本を読む度に、自分が今まで努力して評価されてきた、と思っていたことの多くが、男性優位社会で自分が男性である、という努力以外の部分が大きいのではないかと、認識が変化してきました。