近年、ウェブやデジタルデザインの世界で注目を集めている「バリアブルフォント(Variable Font)」は、従来の静的なフォント表現を革新する新しいタイポグラフィのアプローチです。
バリアブルフォントは、ひとつのフォントファイル内で幅広いウェイトやスタイルを自由に調整できるため、デザインの柔軟性とパフォーマンス向上を実現します。
本記事では、バリアブルフォントの基本的な仕組みから、そのメリット・デメリットまで、詳しく解説していきます。
バリアブルフォントの基礎知識
バリアブルフォントは、従来のフォントが持つ複数のスタイル(例えば、レギュラー、ボールド、イタリックなど)をひとつのファイルに統合し、デザインパラメータを数値で細かく制御できるフォント技術です。
軸(Axis):
バリアブルフォントでは、フォントの見た目を変化させるパラメータを 「軸(Axis)」 と呼びます。軸を使うことで、1つのフォントファイル内でさまざまなバリエーションを生み出すことが可能になります。主な軸には以下のようなものがあります。
- Weight(ウェイト)-フォントの太さを調整する軸(例:Thin から Black までの範囲で滑らかに変化)。
- Width(ウィズ)-フォントの横幅を調整する軸(例:Condensed(狭い)から Expanded(広い)まで)。
- Italic(イタリック)-通常のスタイルから斜体への変化を滑らかにコントロールする軸。
- Slant(スラント)-イタリックとは異なり、角度だけを傾ける軸。
- Optical Size(オプティカルサイズ)-フォントを使用するサイズに応じて、可読性を最適化するためのデザイン調整軸(例:小さいサイズでは太め、大きいサイズでは細めになる)。
技術的背景:
OpenType仕様の拡張として登場し、複数のフォントバリエーションを滑らかに補完できる機能を持っています。
普及状況:
最新のWebブラウザやAdobeのデザインソフトウェアは、バリアブルフォントのサポートが進んでおり、今後さらに利用が拡大すると予想されます。
メリット
バリアブルフォントには、以下のようなメリットがあります。
柔軟なデザイン調整:
単一ファイルで複数のスタイルをカバーできるため、細かなデザイン調整が容易です。
パフォーマンス向上:
Webデザインにおいては、必要なスタイルを個別に読み込む必要がなく、ファイルサイズの削減やロード時間の短縮に寄与します。
一貫性のある表現:
同一ファミリー内での連続性のある変化が可能なため、ブランドやプロジェクト全体での統一感を保てます。
クリエイティブな可能性:
デザイナーは、従来の決まりきったスタイルにとらわれず、動的なタイポグラフィ表現を実現できるため、インタラクティブなWeb体験を提供できます。
デメリット
一方で、バリアブルフォントにはいくつかのデメリットも存在します。
互換性の問題:
古いブラウザや一部のデザインツールでは、バリアブルフォントに対応していない場合があり、表示や編集に問題が生じることがあります。
実装の複雑さ:
パラメータを自由に調整できる反面、過剰な設定や不適切な利用が原因で、デザインが崩れたり、ユーザビリティに悪影響を与える可能性があります。
制作コスト:
従来のフォントに比べ、制作や調整に専門的な知識が求められるため、開発コストや学習コストが増大することがあります。
Adobe Illustratorでの使用方法
Adobe Illustratorでバリアブルフォントを使用する方法をご紹介します。
1.バリアブルフォントを選ぶ
今回はAdobe fontsに収録されている「百千鳥 VF」を使います。(※VFはVariable Fontsの頭文字です。)

百千鳥 | Adobe Fonts
https://fonts.adobe.com/fonts/momochidori
2. バリアブルフォントボタンでフォントの見た目を調整する
バリアブルフォントの場合、文字ウィンドウのウェイト表示の隣に下図の様なバリアブルフォント調整ボタンが表示されます。

こちらをクリックすると、字幅、太さ、欧文イタリックを調整できるバーが表示されます。
このスライダーを動かすことでフォントのデザインを直感的に変更することができます。



欧文でも、下図のように調整が可能です。

*「百千鳥 VF」にはイタリック体は収録されていないようなので、ここは変化なしでした。
バリアブルフォントの探し方
Adobe Fontsのバリアブルフォント
Adobe Fontsでは、サイドバーに「バリアブルフォント」というボタンがあるのでこちらをクリックすることで、バリアブルフォントの一覧を表示させることができます。
バリアブルフォントを検索 | Adobe Fonts
https://fonts.adobe.com/fonts?browse_mode=japanese&cc=true&languages=ja&min_styles=1&max_styles=26&font_technology=vf

Google Fontsのバリアブルフォント
Google Fontsでは以下のリンクにバリアブルフォントの一覧がまとめられています。
Variable fonts – Google Fonts
https://fonts.google.com/variablefonts#font-families

こちらはすべて無料で使用できるフリーフォントとなります。
まとめ
バリアブルフォントは、これまでのフォント設計の常識を覆す革新的な技術です。
日本語フォントにおいてはまだ発展途上の部分もありますが、幅や太さを自在に調整できるフォントが増えており、デザインの可能性を広げています。
今後の進化にも注目しながら、ぜひバリアブルフォントを実際のデザインプロジェクトで試してみてください。
Header: Shubham DhageによるPixabayからの画像