Factory 4Fで開催された「4F製本セミナー・初級編『 製本の基本のきほん 』」に参加してきました。
Factory4Fとは、江東区にある製本会社、篠原紙工の4階にこの春オープンした、印刷・製本のための多目的スペース。
今回の製本セミナーでは贅沢にも、社長の篠原慶丞さん直々に、製本の工程を教えて頂きました。
Contents 製本の流れ 1.断裁 2.折り 3.丁合 4.綴じ その他 まとめ
製本の流れ
製本の工程は大きく、以下の4段階に分けられます。
1.断裁→2.折り→3.丁合→4.綴じ
それぞれの工程ごとにお話をして頂きました。
1.断裁
まずは、印刷された全紙を断裁します。
断裁の目的
面付け印刷された全紙は、4角が厳密には直角になっていないので、断裁する事によって直角を出す。この断裁が正確に行われていないと後の『折り』以降の工程でズレが生じてしまうそうです。
直角を出すための断裁機へのセッティングは、職人の手の感覚を頼りに行うという事。すごい技術です。
2.折り
断裁した用紙を機械を使って折ります。
動画の撮り始めが遅かったのですが、黄緑の紙がローラーによって、一度上に上がっています。そして、上部にある羽根で止まり、下のローラーに挟まれて折られています。
この羽根の数と位置の調整で、折り方や折りの数を調整するそうです。
なぜ折るのか?
例えば、80ページの本を作る際に、1枚ずつ丁合していくと、当然、80枚分の作業が発生します。それを8ページずつ面付けした用紙を折って使用すれば、10枚分の作業で済みます。
折りという工程を含めても、丁合いの枚数を減らせるほうが、作業コストとしては安価になるという理由があるそうです。
紙目について
T目、Y目といった紙の目を気にすることは、この折り加工の際に、特に重要になってきます。
上記の折り機を通す際に、紙目が逆(折り線と水平になっていない状態)になっているとローラーを通しても、折りの頂点の位置が指定とズレてしまいます。
いいかげん折り
篠原紙工独自の技術、『いいかげん折り』。
紙を羽根に送る角度を変化させて折るこの技法は、デザイナーの祖父江慎さんからの、紙をぐしゃっと丸めて「こんな感じの折りをやってみて」という無茶ぶりから開発されたもの。
とてもレベルの高い職人さんがいる篠原紙工の中でも、この『いいかげん折り』を使いこなせる方は一人しかいないそうです。
3.丁合
印刷され、折られた用紙(折丁)を、本のページ順に合わせていく作業。
一般的には、馬の鞍の様に開いて中央に重ねていく『鞍がけ丁合』と、閉じた状態で積み重ねていく『平積み丁合』の二種類があります。
次の『綴じ』との組み合わせ方で、最終的な制作物の用途が変わってきます。
4.綴じ
丁合した用紙を一冊に綴じる工程。
綴る方法は大きく分けて、『針金』『のり』『糸』の三種類に分類されます。
鞍がけ丁合+針金=中綴じ
用途:カタログ、会社案内など。
鞍がけ丁合+のり=のり綴じ
用途:カタログ、幼児用の冊子など。
鞍がけ丁合+糸=中ミシン綴じ、中ミシン上製
用途:中ミシン綴じ→ノート、パスポート等。中ミシン上製→絵本など。
これまで私は、ハードカバーの装幀と云えば平綴じだと思っていたので、上の絵本の様に、中綴じでもハードカバーが可能だという事を知って、意外でした。
平積み丁合+針金=平綴
用途:会議用資料など。
平積み丁合+のり
用途:カタログ、雑誌、文庫本など。
『のり』には大きく分けて以下の三種類があります。
1.エマルジョン
いわゆる、木工用ボンド。扱いやすいが、乾くのに時間が掛かる。乾いた後ものりが柔らかいので、強度には劣る。
天のりメモや、糸かがり製本において、背に刷毛で塗る際に使用するのり。
2.ホットメルト
常温では硬い。熱をかけると柔らかくなり、固まると再び硬くなる。
EVAとPUR
ホットメルトには、従来使用されてきたEVA(Ethylene Vinyl Acetate)とそれを改良したPUR(Poly Uretane Reactive)がある。
EVAは、インクの上に乗ると強度が落ちるため、面付け時、ノドの部分に1〜2mm程度の、白い余白(のりしろ)を取る必要がある。
PURは、EVAよりコストがかかり、扱える印刷会社も限られているが、空気中の水分と結合して固まるため、乾いた後ものりが柔らかい。
のりの強度
PUR≧EVA
のりのやわらかさ
エマルジョン>PUR>EVA
3.ニカワ
動物の皮膚や骨から抽出されるのり。上製本の見返しと表紙を止める時や、貼函に使われることもあるが、基本的にはあまり使用されない。
ジャンプとマガジンの『のり』の違い
今回のセミナーで一番衝撃を受けたのはこちら。漫画雑誌のジャンプとマガジンで使用しているのりが違うという事です。
平積み丁合+糸=糸かがり、上製本
用途:糸かがり→コデックス装、手帳など。上製本→書籍、記念誌、写真集など。
糸かがりとは言いますが、糸だけでは強度が足りないので、糸でかがった後の背に、全体的にのり(エマルジョン)を塗ります。
糸でかがっただけの物は、手で動かすと簡単にずれてしまいます。
糸かがりは強度はありますが、のりと糸を両方使うことから、作業時間が針金やのりと比べて多くかかってしまうので、その分、コストも上がってしまうそうです。
その他
篠原紙工に製本を依頼するには?
小部数でも対応は可能だが、しっかりした職人を使っているので、コスト面だけだと、印刷通販のような所よりは高くなってしまいがち。
お客さんによっては、印刷通販などで面付けした状態で出力し、それを篠原紙工に送って製本をしてもらうケースもあり。…但し、その場合、面付けの知識などが必要になるので、事前に綿密な相談が必要になる。
また、本文の製本までしたものを送ってもらい、ハードカバーの表紙をつけてもらうなど、部分的な作業でも対応可能。
まとめ
今回のセミナーに参加して、これまで知ったつもりになっていた製本の用語や工程の意味を、実際の制作物や機械を見ながら解説して頂くことで、改めて知ることが出来ました。
篠原さんがジャンプとマガジンののりの違いに気づいたように、私も、身の周りの印刷物に対して、折りや綴じがどうなっているか?という製本的な視点で着目していきたいと思います。
今回は初級編という事なので、今後、中級編、上級編があれば是非また参加したいと思いました。
4F製本セミナー・初級編『 製本の基本のきほん 』 Date: 2015.08.11 Place: Factory 4F(http://factory4f.com/index.html) Speaker: 篠原慶丞