[読書感想]「汝、星のごとく」凪良 ゆう|閉鎖的な人生を打破しようと足掻く、二人の創作者の物語

凪良 ゆうさんの小説「汝、星のごとく」をAudibleで読みました。
感想をご紹介します。

あらすじ

その愛は、あまりにも切ない。
正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。
ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。
ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

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エグいバクマン

主人公の一人、櫂は漫画原作者として成功して島を出て東京で暮らします。
その過程で都会やビジネス、出会う人やお金によって変わっていきます。
昔人気だった、漫画家を描いた少年漫画「バクマン」をよりリアルに、救いようがない感じにした作品だと思いました。

バクマン。 モノクロ版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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暗い描写が長く続く

二人の主人公、特に暁海の方にはひたすら悲惨な展開が訪れます。
その展開が長いので、真綿でじわじわと首を絞められる感じで、途中は読んでいてかなり重い気持ちになりました

登場人物にヘイトが集まったところでバチが当たる展開

本作はどんな登場人物をも、善としても悪としても描いていないので、良いことが続き、調子に乗っていたキャラクターに対して読者がだんだん嫌な印象になってきたところで天罰のように落とす展開が入ります。

サブキャラに共感

主人公2人と先生は物語上バフがかかってる印象があり、結構ファンタジック(ご都合主義?)とも言える出来事が起こります。
それよりも、暁海と櫂の親や、櫂の相棒の漫画家、編集の人や暁海の刺繍の先生(瞳子さん)などには、わりとリアリティがある感じで、成功や苦難が訪れるので、私はサブキャラクターの方により共感をしました。

物語の終わり方の難しさ

途中まで、衝撃的な展開の連続でかなり物語の風呂敷を広げていくので「この話はどうやって終わるのだろうか?」と不安になるのですが、後半になるにつれて、良い意味でも悪い意味でも物語が収束していくので、最後はうまくまとめた、という印象になりました。
何が正解か、は作者が決めれば良いと思うのですが、物語の終わり方って難しいと感じました。
ですが、「汝、星のごとく」という本作のタイトルを最後に回収するシーンがあるのですが、そこは非常に良くて、鳥肌が立ちました

一番印象に残ったシーン

本作で一番印象に残ったのは、暁海が閉鎖的な島の生活の中で刺繍と出会い、雑誌に掲載されていたパリのメゾンに想いを馳せるシーンです。
私の頭の中に、その情景が浮かんで、アート(作品制作)によって閉鎖的な自分の人生が変わり、世界と繋がっていくような、非常にドラマチックな描写でした。

まとめ

この感想を書いていて思ったのですが、本作は二人の主人公の人生や愛憎を描きながらも、ものづくり「クリエイティブ」について描いているのかもと思いました。
櫂を支える二人の編集者もそれぞれ矜持があってとても魅力的です。
重い物語ですが、創作活動によって世界を広げる、「クリエイティブ」の力を感じさせられました。

満足度

83点/100点満点中

長い物語なので、読後の満足感はすごいです。

汝、星のごとく

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Header: Rene TittmannによるPixabayからの画像

[読書感想]「正欲」朝井リョウ/本当の多様性とは何か?正しさ、普通とは何か?を考えさせられる傑作長編小説!-あらすじ、登場人物、感想など

朝井リョウさんによる小説「正欲」をAudibleで読みました。
非常に面白かったです!

タイトルの「正欲」は
性的嗜好という意味での「性欲」

社会において自分が正しい側にいたいという「正(しくありたい)欲」
を組み合わせた言葉だと思います。

小説「正欲」の作品概要

自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな。

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。
だがその繋がりは、“多様性を尊重する時代”にとって、ひどく不都合なものだった。

この世界で生きていくために、手を組みませんか。

Amazon.co.jp: 正欲(新潮文庫) 電子書籍: 朝井リョウ: Kindleストア

小説「正欲」のストーリーについて

複数の人物の視点で物語が展開されていきます。
始めはそれぞれの人生は一見関係なさそうなのですが、後半に進むにつれてストーリーが交差していきます。

小説「正欲」の登場人物

寺井啓喜

検事。妻と不登校の息子がいる。息子が小学校を不登校ながらYouTubeチャンネルを開始したのが悩みの種。

桐生夏月

地方のショッピングセンターの寝具売り場で店員として働く女性。学生時代、佐々木佳道と同級生だった。

佐々木佳道

独身の男性。学生時代、桐生夏月と同級生。両親の死をきっかけに実家に戻り、そこで桐生夏月と再会する。

諸橋大也

イケメン大学生。学内のダンスサークル「スペード」に所属している。

神戸八重子

大也と同じ大学に通う大学生。イベント「ダイバーシティフェス」の実行委員を通して大也と知り合い、彼に不思議な魅力を感じていく。男性が苦手。

寺井由美

寺井啓喜の妻。専業主婦。不登校の息子と日々の生活を送る。息子のYouTubeを手伝う。

寺井泰希

寺井啓喜の息子。小学校を不登校になり、同じく不登校の友達とともにYouTubeチャンネルを始める。

右近一将

不登校の子供を支援するNPOの若い男性。泰希のYouTubeの編集などを熱心にサポートする。

フジワラサトル

過去に、学校の水道の蛇口を盗み逮捕された男。動機について、「水が勢いよく吹き出すのを見る事が楽しかった」と語った。

小説「正欲」の作品テーマ

本当の多様性とは何か?を問う作品です。

小説「正欲」の感想

非常に面白かったです。正しいとは何か?普通とは何か?多様性とは何か?という問いについて、様々な登場人物の人生を通して考えさせてくれます。
私ははじめ、Amazonなどの紹介文として書かれていた以下の文章を見て、

「自分が想像できる“多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、
そりゃ気持ちいいよな。」

多様性やSDGsに対しての逆張りのような意見を述べている小説なのかな?と思い、すぐには聴こうとは思えませんでした。
しかし、朝井リョウさんの作品では「桐島、部活やめるってよ」を映画で観たことがあり、非常に面白い作品だと思ったので今作も信じて聴いてみようと思いました。

実際に聴き始めると、登場人物たちの物語の先が気になり、止まらなくなりました。

実際に起きた事件を参考にしているだろうな、と思われる描写も多く、リアリティがありました。
読む前に気になっていた紹介文に記載の言葉が出るシーンは物語のクライマックスなのですが、それまでの展開を読んでいるとこの発言をする理由がしっかりと理解できます。
また、言いっ放しではなく、このセリフを言われた人物からのアンサーもしっかりとあり、それも納得できます。

物語の重要な要素となる性欲の設定も、絶妙なラインを選んだなと、感心しました。

世の中には自分が想像できないくらい多様な人間がいるにも関わらず、正しさはある少ない種類の方向で決められている。
人は常に誰かに「正しい」と言ってもらいたい。
という事を強く認識させてくれる内容でした。

小説「正欲」の評価

95点/100点満点

長編ですがそれを感じさせない物語の運びです。
それぞれの人生が交差するクライマックスは圧巻でした。
Audibleのナレーションも、ナレーターの方を何人も使っていて非常に豪華で、オーディオブックというよりもオーディオドラマを聴いているようでした。

多様性について日頃から考えている方もそうでない方も、多くの方に読んでいただきたい傑作です!

小説「正欲」の書籍

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Audibleは無料体験ができます

話題の本を料金内で何冊も読めるのは非常にお得だと思います。
Audibleは無料の体験もありますので、気になった方は以下のバナーからぜひ体験してみてください。

「正欲」の実写映画

本作は実写映画が制作され2013年11月から公開されています。

予告動画を観たら映画も観たくなりました!

稲垣吾郎×新垣結衣『正欲』60秒予告

映画も観てみましたの感想の記事をこちらに書きました。原作が気に入った方にはおすすめです!

Header: Jonas KIMによるPixabayからの画像