なぜ印刷の色は暗くなる?デザイナーが知っておくべき色の仕組みと対策

デザインを制作したパソコンの画面で見た色と、実際に印刷された色が違って見えた経験はありませんか?
多くの場合、印刷された色は、画面で見た色よりも暗く感じられることが多いと思います。
今回は、その理由と対策についてご紹介します。


◆ なぜ印刷の色は暗く見えるのか?

最も大きな理由は、「光の違い」です
モニターで見ている色は「発光(光そのもの)」ですが、印刷物の色は「反射光」を見ています。

たとえIllustratorでCMYK設定で制作していたとしても、画面の表示自体はRGBです。
モニターは光を直接発しているため、色が明るく、鮮やかに見える傾向があります。

一方、印刷物(チラシ、パンフレット、ポスターなど)は、紙の上にインクをのせたものであり、そのインクが反射した光を私たちは見ています。
この仕組みの違いが、色の見え方の差につながるのです。

まずは、この「発光と反射」という根本的な違いを理解しておきましょう。


◆ モニターと印刷の色差を少なくするには?

とはいえ、できるだけ画面と印刷の色差を少なくしたいというのが本音ですよね。
そのためには、モニターのキャリブレーション(色調整)が欠かせません。

キャリブレーションとは、モニターの色味や明るさを調整し、正確な色を表示させる作業のこと。
専用のキャリブレーター(測定機器)を使うことで、モニターの表示を印刷に近づけることができます。

プロのデザイナーが使用するキャリブレーターの例

X-Rite i1Display Studio (EODISSTU)

キャリブレーションを行えば、複数のパソコンで同じデータを扱う際にも、色のズレが少なくなり、統一感を保つことが可能になります。


◆ ICCプロファイルで色の基準を共有する

印刷時の色ブレを減らすために重要なのが「ICCプロファイル」の活用です。
ICCプロファイルとは、色の情報を正しくやり取りするための「カラーマップ」のようなもの。
これを使うことで、デバイス(モニター、プリンター、印刷機)間の色のズレを抑えることができます。


◎ IllustratorでICCプロファイルを設定する方法

  1. メニューから「編集」>「カラー設定」を開く
     まず、Illustratorの上部メニューから「編集」→「カラー設定(Color Settings)」を選びます。
  2. 作業スペース(CMYK)を設定
     表示されたウィンドウの「作業スペース」内の CMYK 項目を「Japan Color 2001 Coated」に設定します。
     このプロファイルは、日本の印刷業界で広く使われており、一般的なコート紙に対応した標準的なプロファイルです。
  3. 必要に応じてプロファイルポリシーを確認
     「カラーマネジメントポリシー」セクションで、「CMYKのプロファイルを保持」などの設定を確認しておきましょう。
  4. 設定を保存して完了
     必要に応じて設定をプリセットとして保存しておけば、次回以降も簡単に同じ設定で作業できます。

商業印刷物(パンフレットやポスターなど)を制作する際には、ICCプロファイルの設定は非常に重要なステップです。


◆ 用紙によっても色は変わる

もう一つ見落とされがちなのが「用紙の違い」です。
同じデータ・同じインクで印刷しても、紙質や白さ、光沢の有無によって色の見え方は大きく変わります。

たとえば:

  • コート紙(光沢あり):発色がよく、色が鮮やかに出る
  • マット紙:落ち着いたトーンになり、少し色が沈む
  • 上質紙(普通紙):インクの吸収が強く、ややぼやけた印象になる

このように、最終的にどんな紙に印刷するかによって、同じデザインでも印象がガラッと変わります。
可能であれば、実際に使う用紙で色校正を行うのがベストです。


◆ 最終的には「出力メディア」に合わせた調整が必要

思い通りの色を表現するためには、最終的な出力メディアに合わせて調整することが重要です。

もし完成形が印刷物であれば、実際にプリントアウトした色味を見ながら調整するのが確実です。
画面上だけで判断せず、出力紙を見て調整するというステップを取りましょう。

また、一般的に印刷された色は、モニターで見るよりもやや暗く、沈んで見えるのが基本です。
近年では、RGB印刷や蛍光インキ、特色インキなど、色を鮮やかに見せる印刷技術もありますが、これらは通常のオフセット4色印刷に比べてコストが高くなる点にも注意が必要です。


◆ 最後に

画面と印刷で色が違うのは当然のことですが、だからこそ、デザイナーには「メディアの特性を理解して色をコントロールする力」が求められます

印刷されて「手に取れる形」になったデザインは、画面上で見るのとはまた違った力を持っています。
その魅力を最大限に引き出すためにも、色の違いに関する理解を深めておきましょう。

【展覧会】グラフィックデザインの潮流を体感!「TDC 2025」展レポート at ギンザ・グラフィック・ギャラリー【タイポグラフィ】

先日、ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の「TDC 2025(TOKYO TYPE DIRECTORS CLUB EXHIBITION 2025)」展を訪れました。本展は、2024年度の優れたタイポグラフィ作品が一堂に会する展覧会です。

見どころ

  • 実物の質感を楽しめる
    ポスターなどの実物作品を見ることで、紙質や印刷の質感など、実物ならではの迫力を体感できます。
  • 海外デザイナーの作品展示
    海外の優れたグラフィックデザイナーの作品が多数展示されており、日本ではなかなか触れられない異文化のデザインに触れることができます。これにより、非常に良い刺激を得ることができました。
  • パッケージデザインの充実
    お菓子の箱など、パッケージデザインも多く取り上げられており、立体の作品は見応えがあります。
  • デザインの潮流が見える
    私自身、毎年ではありませんが定期的にこの展覧会を訪れており、継続して見ることで、グラフィックデザインの流行や変遷を感じ取ることができます。

展示の様子

以下は、会場で撮影した写真の一部です。実際の展示の雰囲気や作品のディテールをぜひご覧ください。

1階

ブックデザインの受賞作。実際に本を手にとって読むことができます

こちらの本は印刷が素敵でした。文字は銀のインクで刷られているようです。

写真もキラキラと光っています。

こちらの本は蛍光色の紙の使い方が非常に上手でした。

こちらは建築の本。

建築図面をリソグラフのような多色の特色で印刷しています。

通常では地味になりがちな図面のページが非常にカラフルで、ポップな印象になっています。

文字ページもカラフルで楽しげです。

この写真集は文字の入れ方や写真と文字の配置が独特で、参考になりました。

リズムを感じるタイポグラフィ。

ノンブルの位置も絶妙です。

こちらは作品集。

素直に、作品が美しいと感じました。印刷も美麗!

舟山貴士さんによる書体「しゅうれん かな」。美しい!

レコードジャケットなどもあります。

京都名物、西尾の八つ橋パッケージデザイン。

地下1階

まとめ

グラフィックデザインやタイポグラフィに興味がある方には、必見の展示です。もし機会があれば、ぜひ会期中に足を運んでみてください。

展覧会情報

  • 会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
  • 住所:〒104-0061 東京都中央区銀座7-7-2 DNP銀座ビル 1F/ B1F
  • 会期:2025年4月4日(金)ー5月17日(土)
  • 開館時間:11:00am-7:00pm 日曜日、4月29日、5月3日-6日休館 入場無料

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下町の魅力再発見!リニューアルした『したまちミュージアム』でタイムスリップ体験

東京都台東区にある「したまちミュージアム」を先日訪れました。元々「下町風俗資料館」として親しまれていたこの施設は、上野公園内・不忍池の脇に位置し、改装工事を経て2025年3月に「したまちミュージアム」としてリニューアルオープンしました。

魅力的だった点

  • 下町の歴史に触れる展示
    下町由来の資料や、生活道具、玩具の実物が展示され、当時の生活様式が感じられました。
  • 昭和30年代の下町再現
    館内では昭和30年代の東京・下町の街並みが再現され、まるでその時代にタイムスリップしたかのような体験ができました。
  • 実際に体験できる住宅模型
    住宅模型に実際に入って、当時の住環境を肌で感じられるのは特に印象的でした。
  • 大型スクリーンによる映像展示
    大型スクリーンを使った映像展示が、視覚的に下町の歴史を豊かに伝えてくれました。
  • 美しくリニューアルされた館内
    改装により館内はとてもきれいになり、展示品が一層引き立っていました。
  • 昔ながらの遊びの体験
    けん玉など、懐かしい昔の遊びを実際に体験できるコーナーもあり、子どもから大人まで楽しめる工夫が感じられました。

改善を望む点

  • 外国人観光客向けの案内表示の不足
    多くの海外からの観光客も訪れていましたが、案内表示が日本語のみの箇所が散見され、外国人にとっては分かりにくい部分があったように感じました。多言語対応が進むと、より多くの方に楽しんでもらえるのではないかと思います。

それでは、館内の雰囲気を感じられる写真をご紹介します。

館内写真

1階

1階には昭和30年代の東京下町の街並みが模型で再現されています。

住宅内には靴を脱いで上がることができます

2階

2階には歴史を学べる展示のようになっています。

3階

3階には昔の玩具で遊べるコーナーもありました。

まとめ

今回のリニューアルで新たな魅力を手に入れた「したまちミュージアム」は、下町の歴史と文化を体験できる貴重なスポットです。

下町の風情を感じながら、懐かしさと新しさが共存する魅力的な空間をぜひ体験してみてください。

施設情報

  • 開館時間:9時30分から16時30分(入館は16時00まで)
  • 休館日:月曜日(祝休日と重なる場合は翌平日)、12月29日から1月3日、特別整理期間等 ※詳細はWebページをご確認ください(https://www.taitogeibun.net/shitamachi/
  • 入館料:一般300円(200円)、小・中・高校生100円(50円) ※入館料( )は20名以上の団体料金