「オーブリー・ビアズリー展」at 三菱一号館美術館〈感想〉|繊細さと鬼気迫る筆致に圧倒

三菱一号館美術館で開催されていた、オーブリー・ビアズリーの個展「異端の奇才―ビアズリー」を観に行ってきました。とても混雑していて、改めて彼の人気の高さを感じました。

名作を生で観ることができたのは本当に良かったです。特に晩年の作品は描写の精緻さが凄まじく、鬼気迫るようなクオリティでした。

病とともに歩んだ創作の日々

ビアズリーはわずか7歳のときに結核を患い、病と闘いながらも仕事をし、その合間の夜に蝋燭の明かりを頼りに絵を描くという日々を送っていました。

彼の作品の力強さや繊細さは、こうした背景を知ることで、より深く感じ取ることができます。

線と点でつくる立体感

晩年の作品で特に印象に残ったのは、細い線の集積や、輪郭線を点描で描くことで立体感を生み出している点です。

遠くから見ると黒ベタ塗りに見える人物の髪も、近くで見ると細い線で髪の流れが丁寧に描かれていて、驚くほど立体的に見えました。

オスカー・ワイルドと時代の価値観

一緒に仕事をしていたオスカー・ワイルドが同性愛を理由に逮捕され、それによりビアズリー自身も職を失ってしまいます。

同性愛というだけで捕まってしまうというのは、現代の価値観では信じがたいことです。時代の厳しさと、それに翻弄される芸術家たちの姿が胸に残りました。

不本意な仕事と、アーティストの苦悩

その後、ビアズリーはやりたくもないポルノ誌の仕事をして生計を立てていた時期もありました。

このあたりのエピソードは、現代のアーティストにも通じるような、普遍的な苦悩や葛藤を感じさせます。

作品だけでなく、人生にも惹かれる展示

今回の展覧会では作品そのものはもちろん、ビアズリーの人生についても深く知ることができた点がとても良かったです。

また、彼とゆかりのある作家の絵画や工芸品も展示されており、展示内容はバラエティに富んでいました。

建物の美しさも一見の価値あり

三菱一号館美術館は、展示そのものも素晴らしいのですが、何より建物自体が歴史ある佇まいで美しく、展示以外でも館内を巡る楽しさがあります。

グラフィックデザイナー目線の発見

これまでビアズリーの絵画作品はネットや書籍で目にすることが多かったのですが、今回はポスターデザインなど、これまで観たことのなかった印刷物の展示もありました。

イラスト原画とは異なる魅力があり、原寸の大きなサイズで見ることができて、グラフィックデザイナーである私にとっては非常に刺激的な体験でした。

ビアズリーのポスター作品。初めて観ました

会場写真

展示会場には撮影OKのエリアがありましたので、そこで撮影した写真をご紹介します。展覧会の雰囲気を感じ取ってください。

最後に:より深く知りたくなったビアズリーの世界

前々からビアズリーの作品は好きでしたが、今回の展示を通して、その人間性や人生も含めて、より深く惹かれるようになりました。

展覧会はすでに終了していますが、興味のある方はぜひオーブリー・ビアズリーについて調べてみてください。彼の作品と生き方には、今の時代にも通じる魅力があります。

展覧会情報

異端の奇才―ビアズリー
会期:2025年2月15日(土) – 2025年5月11日(日)
会場:三菱一号館美術館
https://mimt.jp/ex/beardsley/

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オーブリー・ビアズリー入門|アール・ヌーヴォーの異才が描く、黒と白の耽美饗宴

19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した英イラストレーター、オーブリー・ビアズリー(Aubrey Beardsley)。

彼の繊細で大胆な線描と、モノクロームのコントラストを生かした独特のスタイルは、アール・ヌーヴォー(世紀末芸術運動)の象徴として知られています。

本記事では、ビアズリーの生涯、作風、代表作、そして現代に与えた影響を紹介します。


1. 生涯と背景

  • 生年月日・出身: 1872年8月21日、イギリスのブライトン生まれ。
  • 教育: ウェストミンスター美術学校で学ぶ。
  • 病と死: 結核を患い、25歳という若さの1898年3月16日にフランスのマントンで逝去。
AubreyBeardsley-Hollyer1

↑写真家フレデリック・ホリヤーによる、オーブリー・ビアズリーのポートレイト。

幼少期から虚弱体質だったビアズリーは、画家としての長いキャリアを得ることはかないませんでした。

しかし、短い生涯の中で膨大な量の挿絵や書籍の装丁を手がけ、その革新的なスタイルは後世に大きな影響を残しました。


2. 作風の特徴

  • モノクロームの美学
    ビアズリー作品の多くは白と黒のみで描かれ、強いコントラストによって幻想的かつ官能的な世界が生み出されています。
The Black Cat, c. 1894-1895. Illustrations of short stories by Edgar Allan Poe

↑『黒猫』(1894–5)

  • 有機的なライン
    植物の蔓や曲線的な装飾が絡み合うように描かれ、緻密で流れるような線描は見る者を惹きつけます。
"The Cave of Spleen", illustration by Aubrey Beardsley for The Rape of the Lock (1896) by Alexander Pope

↑ポープ『髪盗み』挿絵(1896)

  • 耽美主義的テーマ
    グロテスクやエロティックな要素を含む場面も多く、世紀末文化の「退廃美」を象徴しています。
lylistrata

↑アリストパネス『女の平和』挿絵(1896)

3. 代表作

  • 『サロメ』挿絵(1893年)
    オスカー・ワイルドの戯曲『サロメ』の挿絵として描かれた一連の作品。ユダヤ王女サロメの妖艶さと、不穏な物語の空気が見事に表現されています。
“The Peacock Skirt”, 1893 illustration by Aubrey Beardsley for Oscar Wilde's play Salomé. Pen and ink drawing, 17.8 x 12.7 cm (7.0 × 5.0 in). Fogg Art Museum, Harvard University

↑オスカー・ワイルド『サロメ』挿絵(1894)

John the Baptist and Salome, c  1893–1894 (published 1907)

↑ヨハネとサロメ

  • トマス・マロリー『アーサー王の死(Le Morte d’Arthur)』挿絵(1894年)
    イギリスの叙事詩『Le Morte d’Arthur』の装丁と挿絵を担当し、中世的な騎士物語を幻想的に表現しました。
Bedivere

↑トマス・マロリー『アーサー王の死』挿絵(1894)

  • 『イエロー・ブック(The Yellow Book)』表紙および挿絵
    アート・エディターとして手掛けた季刊文芸誌『イエロー・ブック』の表紙や挿絵をデザインし、アール・ヌーヴォーの象徴的モチーフを構築しました。
The Yellow Book, with a cover illustrated by Aubrey Beardsley (d.1898)

↑挿絵入り文芸誌『イエロー・ブック』(1894)


4. 現代への影響

  • アートとデザインの境界を曖昧に
    ビアズリーの作品は挿絵だけでなく、グラフィックデザインやタイポグラフィの要素も強く、現代のポスターやブックデザインに多大な影響を与えています。
  • 耽美主義の再評価
    20世紀後半以降、退廃的/耽美的なビジュアル表現を取り入れるアーティストやイラストレーターが増加。ビアズリーの線描技法やテーマ選択が今なお参照されています。

おわりに

オーブリー・ビアズリーの作品は、わずか25年の生涯にして、アール・ヌーヴォーの最先端を駆け抜けた証です。

その濃密で官能的な線描は、現代のデザイナーやアーティストにとっても学ぶべき点が多くあります。

この記事を通じて、ビアズリーの世界観を感じ取り、自身の創作活動のヒントにしていただければ幸いです。

三菱一号館美術館『不在』展レビュー:ロートレックとソフィ・カルの魅力

三菱一号館美術館で開催中の再開館記念展覧会「『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」を訪れました。

再開館した三菱一号館美術館
歴史を感じる美術館
階段のデザインも趣があります

ソフィ・カルの展示は2020年に予定されていましたが、新型コロナウイルスの影響で延期となり、今回ようやく実現しました。

会場の一部は撮影可能エリアもあり、写真とともにご紹介します。

トゥールーズ=ロートレック

ロートレックの作品は有名なので知っているつもりでしたが、生で見ると印象が全く異なります。

ドローイングのようなデッサンが多数展示されており、描写力の高さに見入ってしまいました。特に黒い影の部分の濃淡が、立体感を巧みに表現していて感嘆しました。

ロートレックの撮影可能エリア
ロートレックの名作!
手描きの文字もとても味わいがあります

ソフィ・カル

最近、現代美術に興味がある私にとって、ソフィ・カルの展示は非常にタイムリーな内容でした。以下、特に印象に残った作品をいくつかご紹介します。

ソフィ・カルの撮影可能エリア
右上の写真はカルのお母さん?。母についてのプロジェクト
カルが将来自分を埋葬する土地を買い、撮ったその場所の写真
棺桶の時計
自身の父の死の翌朝、悲しみが目の下にクマとなって現れた
こちらもカルの父の死にまつわる作品
父と母の死にまつわる作品

《海を見る》Voir la mer

初めて海を見る人々の表情を撮影したこのプロジェクト。彼らがどんな感情を抱き、どんな言葉を発したのか、想像が膨らみます。その表情だけでも心を揺さぶられる作品でした。

《あなたには何が見えますか》Que voyez-vous?

盗まれた絵画の額縁だけを展示し、その前で学芸員が語るという作品。人々を巻き込んで物語を紡ぎ出す手法が非常に印象的でした。

《監禁されたピカソ》Les Picasso confinés

コロナ禍でピカソ美術館が閉館していた際、紙で覆われたピカソ作品を撮影したシリーズ。その背後に隠されたピカソの存在を感じさせる手法と視点に圧倒されました。

《なぜなら》Parce que

テキストが刺繍された布をめくると写真が現れる作品。自分の頭で想像したイメージと現実の写真とのギャップが興味深い体験をもたらします。


トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル。時代や表現方法は異なりますが、どちらも刺激的な展示でした。ぜひ足を運んでみてください!

美術館の外や東京駅周辺はクリスマスムード満載でした!

展覧会情報

再開館記念「不在」 ―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル
会期:2024年11月23日(土)—2025年1月26日(日)
開館時間:10:00-18:00(祝日を除く金曜日と会期最終週平日、第2水曜日は20時まで)
※入館は閉館の30分前まで
※年末年始の開館時間は美術館サイト、SNS等でご確認ください
休館日:月曜日、 年末年始[12/31と1/1]
ただし、トークフリーデーの[11月25日・12月30日]と1月13日・20日は開館
会場:三菱一号館美術館
公式Webサイト:https://mimt.jp/ex/LS2024/

展覧会図録

こちらは本展(ロートレックの方のみ)の図録です。行きそびれた方や遠方の方は本書で展示の雰囲気を体験するのも良いかと思います。

「不在」トゥールーズ=ロートレック

伝統と現代アートが交差する「いけばな龍生展2024」鑑賞記

渋谷ストリームホールで開催されていた「いけばな龍生展2024」に行ってきました。

この展覧会は前期と後期に分かれており、それぞれ2日間ずつ展示替えが行われます。私は前期の初日に訪れました。

渋谷ストリーム、かなり久しぶりに来ました

「いけばな龍生展」は、いけばなの流派「龍生派」が主催する年に一度の大規模な花展です。

初日の会場は、出展者であるいけばな作家やその知人と思われる方々で賑わっており、活気に満ちていました。

2つのスタイルが楽しめる展示

「いけばな龍生展」では、大きく分けて2種類のいけばなスタイルを鑑賞できます。

1.自由花

その名の通り、自由な発想や素材を活用したいけばなです。一般的ないけばなのイメージを覆すようなアバンギャルドな作品も多く、現代アートのような魅力を持っています。非常に見応えのある展示です。

花器も素材もアバンギャルドな「自由花」

2.古典華

伝統的なスタイルを踏襲したいけばなで、静謐な中にも植物が持つエネルギーを感じさせる作品が並びます。繊細で美しい表現が特徴です。

伝統を感じる「古典華」

会場の構成と展示空間

会場は3つのフロアに分かれており、それぞれ「自由花」と「古典華」に大まかに区分されています。

自由花のフロア

天井が高く、広々とした空間に作品が展示されています。

ライトボックスを使用し、下から照明を当てた作品など、ユニークな演出が見られます。

光を効果的に使った作品

古典華のフロア

照明は控えめで、花にスポットライトが当てられ、影の美しさも際立っています。

落ち着いた雰囲気の中でじっくりと鑑賞できます。

古典華
作品の影までもが美しい

大作

巨大な「大作」と呼ばれる作品も展示されており、そのスケール感には圧倒されます。植物の力強さと、それを活けた作家の技術に感嘆せずにはいられません。

巨大な「大作」

会場で撮影した写真

気になった作品をいくつか写真撮影したので、ご紹介します。

花器が人の形に!藁人形的な雰囲気でインパクト大!
面白い集合体
近づくと、卵の殻でした!
近づいてみると植物の多様な表情が伝わります
花器も面白い
大作
大作

渋谷ストリームホールでの開催4年目

渋谷ストリームホールでの開催は今年で4年目。

前期と後期で展示替えを行う形式は、この会場では今回が初めてとのことです。

後期の展示ではどのような作品が並ぶのか、とても気になります。

今回は前期だけの鑑賞となりましたが、機会があれば後期も訪れてみたいと思います。

展覧会情報

[会期]2024年11月22日 〜 2024年11月25日
[会場]渋谷ストリーム ホール(東京都渋谷区渋谷3-21-3)
[時間]開場時間:10時〜18時 ※入場は閉場の30分前まで ※23日・25日は16:30閉場
[入場料]入場料:当日1,700円(前売り1,300円)高校生以下無料
*身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方と、その付添者(原則1名)は無料
[公式Webサイト]https://www.ryuseiha.net/event-info/ryuseiten_2024/

2023年の夏に観に行きたい展示/美術館―国立公文書館、高麗博物館、国立ハンセン病資料館、など

2023年の夏に観に行きたい展覧会や美術館を備忘録としてメモしておきます。

「大正時代―公文書でたどる100年前の日本―」, 国立公文書館

会期:令和5年7月22日(土)〜9月18日(月・祝)
会場:国立公文書館 東京本館
Webサイト:https://www.archives.go.jp/exhibition/index.html

 今から約100年前、大正時代(1912~1926)には、政党を基盤とした議会政治の確立、男子普通選挙の実現、女性の社会進出、教育の充実と子どもの保護、国際連盟の発足といった、現在の私たちともつながりのある動きが生まれていました。一方、第一次世界大戦や、発生から100年を迎える関東大震災など、現在も多くの人々に記憶される出来事も起きています。  本展では、今から約100年前の日本がどの様な時代だったのか、国立公文書館が所蔵する資料からご紹介します。

https://www.archives.go.jp/exhibition/index.html

関東大震災について調べているので、こちらの展示は気になります。大正時代は期間が短かったこともあり、他の時代と比べて資料が少ないので色々見られると良いなと思っています。

関東大震災100年ー隠蔽された朝鮮人虐殺, 高麗博物館

会期:2023年7月5日(水)~12月24日(日)
会場:高麗博物館
Webサイト:https://kouraihakubutsukan.org/

1923年の関東大震災朝鮮人虐殺から100年。
虐殺の起きた背景には何があるのか、
そして事実の隠蔽行為はなぜ今も続いているのか。
高麗博物館は関東大震災朝鮮人虐殺をテーマとした企画展を過去3回行い、資料の蓄積があります。
さらに今回は、新たに発見された
淇谷「関東大震災絵巻」を本邦初公開します。
100年の記憶と歴史を継承するための多角的な展示です。
高麗博物館は今回の企画展を通して、
いわれなく殺された人々を追悼すると同時にご来場の皆さんと一緒に考える時間と空間を提供したい。

https://kouraihakubutsukan.org/

今年は関東大震災、そしてそこで起きた朝鮮人虐殺事件から100年。新大久保にある高麗博物館でも大々的な展示が開催されます。

本邦初公開の「関東大震災絵巻」という資料も展示されるとのこと、非常に楽しみです。

国立ハンセン病資料館

Webサイト:https://www.nhdm.jp/

ハンセン病問題に関する中核施設として、各療養所と連携を図りながら、医学的知識、治療の歴史、患者・元患者とその家族に対する偏見・差別の歴史、その苦難の体験についての情報を社会に示し、ハンセン病問題への理解を広く伝えています。そして、それをもとに来館者が人権等の問題について考えていただける場を提供しています。

https://www.nhdm.jp/

こちらは、企画展というよりも、前々から気になっていたので常設展を観に行きたいと思っています。

偏見、差別、人権といった問題にどのようにアプローチしてくか、展示の参考になりそうだと感じています。

まとめ

ひとまずは以上です。

また気になる展示や美術館があったら追加していきたいと思います。

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