モダンデザインとタイポグラフィーを学ぶ:スイス・スタイルのグラフィックデザイナー達の著書

1950年代から60年代にかけて興った、スイス・スタイルのグラフィックデザインは、モダンデザインの基礎をつくり、グリッドシステムやHelveticaなどのサンセリフ書体など、現代のデザインにも大きな影響を与えています。

そして、ヨゼフ・ミューラー=ブロックマンやアーミン・ホフマン、カール・ゲルストナーなど、スイス・スタイルの時代に活躍したグラフィックデザイナー達は、デザイナーの仕事と並行して、デザイン学校で講師もおこなっていました。彼らは自らのデザイン理論を書籍にまとめています。

今回の記事では、スイス・スタイルのグラフィックデザイナー達による著書をご紹介します。

スイス・スタイルのグラフィックデザインとは?

スイス・スタイルのグラフィックデザインは、国際タイポグラフィー様式(International Typographic Style)とも呼ばれています。1950年代から1960年代にかけてスイスで生まれました。

その特徴は、グラフィックデザインに対するクリーンでミニマル、そして高度に構造化されたアプローチにあります。スイス・スタイルでは、明快さ、読みやすさ、客観性を優先し、グリッドシステム、サンセリフ書体、視覚的なレイヤーを重視しています。

また、スイス・スタイルのデザイナーたちは、わかりやすく効率的な方法で情報を伝えようとし、左右非対称のレイアウトや限定されたカラーを使用しました。

このムーブメントは、世界中のグラフィックデザインに多大な影響を与え、今日まで続くモダンデザインの原則を形成しています。

スイス・スタイルのグラフィックデザイナー達の著書

スイス・スタイルのグラフィックデザイナー達の著書をご紹介します。日本語版がある場合、基本的にはそちらをメインで紹介します。

グリッドシステム グラフィックデザインのために

ヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(著)、白井 敬尚(監修)、古賀 稔章(翻訳)

グリッドシステム グラフィックデザインのために

グリッドシステム グラフィックデザインのために

ヨゼフ ミューラー=ブロックマン
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『Grid systems in graphic design』は、スイスのグラフィックデザイナーであり教育者であるヨゼフ・ミューラー=ブロックマン(Josef Müller-Brockmann)(1914-96)の主著であり、本書はその全訳です。

この本は、古代から現代までのヴィジュアルコミュニケーションの歴史的な視点から、グリッドシステムの方法と思想を豊富な具体例とともにわかりやすく解説し、グラフィックデザインの基本書としてデザイナーやタイポグラファだけでなく、デザインを学びたい全ての人々に向けて刊行されました。

Graphic Design Manual: Principles and Practice(英語版)

Armin Hofmann(著)

アーミン・ホフマンの作品は、点、線、形といったグラフィック・フォルムの基本要素に頼りながら、多様なバリエーションを生み出すことで高く評価されています。

この本は、グラフィックデザインの課題に対する方法論的なアプローチを提供する画期的な試みであり、イメージと形の要素は、それぞれの特有の法則に基づいて分析され、探求されています。

本書は1965年に出版されたデザイン・マニュアルの完全改訂版で、彼の考えを現代の技術的な応用に適応させた新しいセクションが追加されています。

明快でミニマルな幾何学的な形やパターンに回帰する時代において、彼の豊富な作品は、現代デザイン実践のための理想的なスタートポイントとなります。

タイポグラフィ─タイポグラフィ的造形の手引き

エミール・ルーダー(著)、ヘルムート・シュミット(監修)、岡本 淳(編集)、ニコール・シュミット(その他)、白井 敬尚(その他)、スミ・シュミット(翻訳)

タイポグラフィ─タイポグラフィ的造形の手引き

タイポグラフィ─タイポグラフィ的造形の手引き

エミール ルーダー
9,350円(05/02 13:08時点)
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この本は、1967年にニグリ社から発売され、エミール・ルーダー(Emil Ruder)の教育と実践から得られた創造的なタイポグラフィに関する知識がまとめられています。

その方法論は、半世紀以上経った現在でも世界中のグラフィックデザイナーやタイポグラファーにとって重要な考え方として参考にされ続けています。

この本は、総合的な章立て、説得力のある論証、豊富な図版、的確な解説によって高い完成度を示しています。また、掲載されている図版は単なる参考図ではなく、著者の洞察と哲学に基づいて選ばれ、構成されたものです。

これらの要素が、本書を単なる「技法書」を超えた名著として特別な存在にしています。

刊行から半世紀以上経ちながらも何度も改訂され、数カ国語に翻訳されながら世界中で読まれ続けていました。そして、ルーダーの精神を受け継いだヘルムート・シュミットが、生前に日本語版の構想を進めていたことから、この翻訳刊行が実現しました。

アシンメトリック・タイポグラフィ

ヤン・チヒョルト(著)、渡邉 翔(翻訳)

アシンメトリック・タイポグラフィ

アシンメトリック・タイポグラフィ

ヤン チヒョルト
3,850円(05/02 17:57時点)
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ドイツの書家、タイポグラファー、ブックデザイナーであるヤン・チヒョルト(Jan Tschichold)の著書。

この書籍は、活字の選択や組版の理論から始まり、色や紙の効果的な使い方にまで及ぶ、タイポグラフィと書物形成の基本的な原則を明快に解説しています。

その内容は今日でも有効であり、世紀を超えて読み継がれる不朽の書となっています。

デザイニング・プログラム

カール・ゲルストナー(著)、永原康史(監訳)(その他)、ヤーン・フォルネル(翻訳)

デザイニング・プログラム

デザイニング・プログラム

カール・ゲルストナー
3,850円(05/02 13:08時点)
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問題の解決ではなく、解決のためのアプローチを重視すると主張したスイス派の伝説的なデザイナー、カール・ゲルストナーの設計方法論。

彼の名著が新たな訳で復刊されました。

カール・ゲルストナー(Karl Gerstner)は、体系的かつプログラム的な思考をグラフィックデザインとアートに応用し、その考え方を先駆的に表現しました。

彼はグラフィックデザイナーとしても成功し、IBM、フォルクスワーゲン、スイス航空などのクライアントを持つ広告代理店の共同経営者でもありました。

彼のアプローチは個々の問題の解決策を追求するのではなく、解決のためのプログラムをデザインすることにあります。

この本では具体的な解説を通じて、デザインプログラムの概念が探求されています。現代デザインに興味を持つ人々にとって、非常に実践的な入門書となることでしょう。

図説 サインとシンボル

アドリアン・フルティガー(著)、小泉 均(監修)、越 朋彦(翻訳)

図説 サインとシンボル

図説 サインとシンボル

アドリアン・フルティガー
6,050円(05/02 22:01時点)
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モダン・タイポグラフィの名匠、アドリアン・フルティガー(Adrian Frutiger)による「記号の形態学」は、長年の経験と研究を経て完成されました。

本書では、視覚的なサインとシンボルが人間の思考の重要な手段であり、伝達の本質であることを、多様な実例を交えて詳しく説明しています。

フルティガー自身による2500点以上の手書きイラストが収録されており、それぞれが魅力的で興味を引くものです。

古代の象形文字や中世の錬金術のサインから現代の企業ロゴまで、彼は世界中のグラフィック文化からエッセンスを取り出し、自在に論じています。

この本は、アートやグラフィックデザイン、装飾の分野だけでなく、文字の歴史、記号論、視覚文化全般、イメージの解釈に興味を持つすべての方にとって必読の書となっています。

まとめ

近年、スイス・スタイルのグラフィックデザイナー達の著書が日本語訳されたり、復刊されることが増えてきました。

電子書籍になっているものもあるので、気になった本があれば是非読んでみてください。

他にもオススメのスイス・スタイルのグラフィックデザイナー達の著書がありましたら、コメント欄などで教えていただけると嬉しいです。

私の“推しフォント”3選(2023年6月16日版)

グラフィックデザイナーの最近の私が最近、仕事やプライベートワークで良く使っている推しのフォント3選をご紹介します。

Avenir next

欧文サンセリフ体の推しはこちら、Avenir nextです!迷ったらこれを使っています。

Helveticaより特徴を出したくて、Universよりも親しみやすさや新しさを感じるデザインだと個人的には感じています。

Macにデフォルトで入っているフォントという点もデータの受け渡しに気を使わなくて良いのでかなりポイントが高いです。

あおとゴシック

以前本ブログでも、気になるフォントとして取り上げたモリサワの新しいゴシック体。

2020年に登場したフォントですが、良い意味で「透明」といえるニュートラルさ、そして、豊富にウェイトを展開しているので本文から見出しまでデザイントーンを揃える事ができます。

モリサワのゴシック体でウェイト展開が多いフォントは、これまで、新ゴ(UD含む)やMB101くらいでした。

これらのフォントは悪くないのですが、昔からあるフォントなのでさすがに、古さを感じていました。

そんな中、登場したこちらのあおとゴシック。

モリサワ純正のフォントなので、字形の追加や、バージョンアップなど、将来への安心度も高いです。

今後もガンガン使っていきたいと思います。

ヒラギノUD角ゴシック

UDのゴシック体ではこちらが推しです。

あおとゴシックが出る前は汎用性の高いフォントとして、本文や小見出しなどに使っていました。

和文はヒラギノベースなのでMacユーザーには見慣れた字形。それに加えて、このフォントは欧文が良いと思っています。

FrutigerやMyriad系列のデザインなので、洗練された印象が出ます。

合成フォントをしなくても和文と欧文の組み合わせが美しいので、プレゼンテーションボードや、デザインの解説文などに使用しています。


今回ご紹介する推しフォントは以上です。

もちろん案件に応じて非常にたくさんのフォントを使い分けするのですが、今回紹介した3つは、私が良く使うフォントといえば、、すぐに名前があがる3書体です。

フォント選びの参考になれば幸いです。

最新のタイポグラフィが集う「TDC 2023」展で、とあるブックデザインに心を鷲掴みにされた

ギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されたタイポグラフィデザインの展覧会「TDC 2023」展を観に行きました。会場の様子を写真でご紹介します。

今年は特に、とある本のブックデザインに非常に心を掴まれました。

「TDC 2023」展

Kent / Nanjing Han Qing Tang Design

この本のブックデザインが素晴らしすぎました。

20世紀のアメリカの画家、作家、冒険家、Kentの作品集。
版画の作品が主に収録されています。

セクションごとに異なる用紙を使っているのですが、その紙のチョイスが非常に繊細でハッとさせられました。

デザイナー自身が編集に関わっているとのこと。

自分もこのような素敵な本を作ってみたい、と強く感じました。

黄色いページに手書き文字が白で入る様が美しい

The Archive of Dark / OK-RM

こちらの本も良かったです。

アーカイブ的なイメージを多層的に組み合わせた表現。

リソグラフ印刷がモチーフと非常に合っていました。

TD. 3% Design Studio

ポスター作品では、こちらが目を惹きました。

様々な紙が貼られている立体的なポスター!

とてもインパクトがあります。

TDC展はポスターだけでなく、パッケージなど、立体作品も直接見られるのが良いですね。

海外のデザイナーも多くて、印刷やタイポグラフィの勉強になります。

来年もぜひ見に来たいと思います。

展覧会データ

ギンザ・グラフィック・ギャラリー第394回企画展
TDC 2023

会期:2023年3月31日(金)~2023年4月28日(金)
会場:ギンザ・グラフィック・ギャラリー

これまでのグラフィックデザイナー人生において、私が非常に影響を受けた3冊の本

今回の記事ではこちらのお題に答えます。

影響を受けた本を3冊挙げてください。 なぜですか ?

私のこれまでのグラフィックデザイナー人生において、非常に影響を受けた3冊の本をご紹介します。

1.構成的ポスターの研究―バウハウスからスイス派の巨匠へ

構成的ポスターの研究―バウハウスからスイス派の巨匠へ ※書影はAmazonより引用
ポスター共同研究会(著/文), ポスター共同研究会・多摩美術大学(著/文), 多摩美術大学ポスター共同研究会(著/文)
ISBN: 978-4-8055-0413-0 283頁
発行: 中央公論美術
奥付の初版発行年月: 2001-11

美術大学を目指して浪人している時に買ったポスターデザインの作品集です。

受験の勉強のためという事もありましたが、物事を抽象化して表現するする、とはこういうことなのか、と刺激を受けました。

ただ作品を掲載しているだけでなく、構成(コンポジション)やモチーフ、色などについても指針を作って分類、研究している本なので、ポスターデザインについて論理的に学ぶことができました。

当時の私にとっては金額的にかなり背伸びして買った本ですが、印刷も非常に美しく、今でも大切にしています。

その後の自分の好きなグラフィックデザインの傾向にかなり影響を与えた本です。

2.RE DESIGN―日常の21世紀

RE DESIGN―日常の21世紀 ※書影はAmazonより引用
RE DESIGN―日常の21世紀

RE DESIGN―日常の21世紀

Amazonの情報を掲載しています
竹尾【編】/原 研哉/日本デザインセンター原デザイン研究所【企画・構成】
朝日新聞出版(2000/04発売)
サイズ A5判/ページ数 237p/高さ 23cm
商品コード 9784022574954

紙の商社、竹尾が主催するイベント『竹尾ペーパーショー』の展示をまとめた本です。

グラフィックデザイナー・アートディレクターの原研哉さんディレクションによる『RE DESIGN』という企画展。

トイレットペーパーやゴキブリホイホイ、マッチや出入国スタンプなど、私たちの生活の中で見慣れたプロダクトが、一流デザイナーの手によってリ・デザインされる企画。

まず、リ・デザインという考え方が衝撃的でした。さらに姿を変えたそれぞれのプロダクトは斬新なアイデアと美しさに満ちており、非常にインスパイアを受けました。

特に印象に残っているのは、プロダクトデザイナー、深澤直人氏による、まるでフルーツの表皮のようなジュースのパッケージデザインです。

また、造本のデザインも非常に美しいです。

写真をふんだんに使い、グリッドシステムによってレイアウトされた誌面は、平面の中にレイヤーを感じさせるデザインでした。綺麗に見える写真の撮り方も非常に参考になります。

そして、ブックデザインは、紙でできているにも関わらず、彫刻の様な存在感がありました。

本というのは立体のオブジェクトなのだと、この本のデザインで気づかされました。

プロジェクトのまとめ方の参考書として、今見ても非常に多くの発見があります。

3.デザイン解体新書

デザイン解体新書
デザイン解体新書

デザイン解体新書

3,650円(05/03 09:05時点)
Amazonの情報を掲載しています
工藤 強勝(監修)
ISBN: 978-4-948759-91-6   271頁
発行: ワークスコーポレーション
奥付の初版発行年月: 2006-03

本ブログでも何度が触れていますが、私が勤めていたデザイン事務所「デザイン実験室」の工藤強勝さんの著書。

工藤さんはご自身ではパソコンを使わず、写植の時代から使われていた「指定紙」というデザインの指示書を作成し、それを私達スタッフがデジタル化する、というデザインの方法を取っていました。

工藤さんのデザインのエッセンスが詰まった指定紙を惜しみなく公開し、本人による解説が書かれた贅沢な本。エディトリアルデザインやブックデザインをする方に取っては必読と言っても過言ではない本だと思います。

私は、工藤さんの事務所に勤める前からこの本を持っていたのですが、入社してから、先輩についていこうと必死でこの本を読みました。なので、家にある本書はカバーも無いですし、線を引いたりページを折ったりして使い込まれた感じになっています。

それでも耐久性が出るようにと、のデザイン設計により本書は糸かがり綴じ(糊ではなく糸での製本)になっているため、ページが取れたりすることはありません。

恐らく私が人生で一番集中して読んだデザインの本です。

まとめ

今回ご紹介した3冊の本は、掲載されているデザインが素晴らしいことに加えて、時代が変わっても色褪せない普遍的なデザインの考え方が書かれています。

読んで損はない本なので、気になった方はぜひ読んでみてください。

私がアイコンデザインをする際に意識している5つのポイント

私がアイコンをデザインする際に気をつけている5つのポイントについてご紹介します。

目的を明確にする

まずは、アイコンが何を表しているかが明確でなければなりません。

デザインの前に、アイコンの目的を決めておくことが大切です。

FirmbeeによるPixabayからの画像

シンプルであること

アイコンは小さいサイズでも読み取りやすくする必要があります。そのため、シンプルであることが重要です。

PixelkultによるPixabayからの画像

意味やデザインコンセプトを反映すること

アイコンが表すコンテンツや機能、コンセプトを反映するデザインにすることが望ましいです。

色の使い方

カラフルすぎると視認性が低下し、モノクロにしすぎるとインパクトが弱くなります。適切な色の使い方が必要です。

Yanis LadjouziによるPixabayからの画像

サイズ

アイコンのサイズは、使用するデバイスの解像度や画面サイズに合わせて調整することが望ましいです。

FirmbeeによるPixabayからの画像

これらのポイントに留意することで、より使いやすく効果的なアイコンをデザインできます。

アイコンをデザインされる際には参考にしてみてください。

ICONISM 世界のアイコン・ピクトグラムのデザイン

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Amazonの情報を掲載しています

Header: Biljana JovanovicによるPixabayからの画像