小説『紙の月』感想|女性主人公が巨額の金を横領する金融サスペンス!

角田光代さんによる小説「紙の月」を読みました。とても面白かったので感想をご紹介します。

紙の月 (ハルキ文庫)

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小説『紙の月』のあらすじ

わかば銀行の支店から一億円が横領された。容疑者は、梅澤梨花41歳。25歳で結婚し専業主婦となったが、子どもには恵まれず、銀行でパート勤めを始めた。真面目な働きぶりで契約社員になった梨花。そんなある日、顧客の孫である大学生の光太に出会うのだった……。

Amazonより引用

正常性バイアスを描いた物語

本作は正常性バイアスを描いている作品だと思いました。
主人公の梨花は、周囲から見ると異常なことをしているにも関わらず、自分ではそれを日常の延長線上だと思っています。

サブキャラクターよりも梨花の物語に惹かれる

梨花と恋人、夫以外の登場人物もしばしば登場するのですが、本筋である梨花の話が気になりすぎて、サブキャラクターのエピソードにはあまり集中できませんでした。

才能が向かった先が「犯罪」だったら?

自分が誰よりも力を発揮できることが犯罪だった場合、どうなるのか……という顛末を見せられているようで、梨花をすごいと思う一方で、かわいそうだとも感じました。

じわじわと転落していくホラーのような怖さ

じわじわと転落していく人生を描いた、ホラーのような味わいのある作品です。

やっぱり角田光代作品は一気読み!

角田光代さんの作品は、毎度のことながら展開が気になって一気に読んでしまいます!

小説『紙の月』オススメ度

8.5/10点

読み終わってみるとやはり、主人公の梨花はダークヒーローなのだと思います。女性主人公が活躍する金融サスペンスが読みたい方には非常にオススメの作品です!!

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本作は2014年に宮沢りえさん主演で映画化されています。映画版を見た感想をこちらに記載しています。

『森に眠る魚』感想|ママ友たちの暗い森に潜むもの

角田光代さんによる小説『森に眠る魚』を読みました。本作は、都内の文教地区に暮らすママ友たちの人間関係を描いた物語です。とても面白かったので、思わず二度読みしてしまいました。

森に眠る魚

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移り変わる人間関係

二度目を読み終えると、前半でママ友たちが仲良くなっていくシーンが後半の怒涛の展開への前振りになっており、大変胸に迫るものがありました。

登場人物や感想をご紹介します。


『森に眠る魚』のあらすじ

東京の文教地区の町で出会った5人の母親。育児を通してしだいに心を許しあうが、いつしかその関係性は変容していた。あの子さえいなければ。私さえいなければ…。凄みある筆致であぶりだした、現代に生きる母親たちの深い孤独と痛み。衝撃の母子小説。
引用)Amazonより

『森に眠る魚』の登場人物

『森に眠る魚』には5人の主婦が登場します。最初はそれぞれの区別がつきづらいのですが、物語を読み進めるうちに個性の違いがはっきりしてきます。どのキャラクターも現実にいそうな性格でリアリティがあります。

繁田繭子(まゆこ)

学業にはあまり得意でないように見えるものの、明るくて社交的な性格です。コミュニケーション能力が高く、夫とともに背伸びをして都心のタワーマンションに暮らしています。一人娘の怜奈を育てており、子育てにも前向きに取り組んでいます。

小林瞳(ひとみ)

夫が宗教者である専業主婦です。高校時代には摂食障害を経験しており、現在は長男の光太郎と長女の茜の二人の子どもを育てています。作品全体にはリアリティのある描写が多い中で、長男・光太郎が一人称に「おいら」を使う点は、読んでいると思わず笑ってしまうポイントになっています。

高原千花(ちか)

友人が多い美人な女性で、夫と二人の子ども(雄太と桃子)と暮らしています。子どもを叱らない独自の子育て方針を持っている母親として描かれており、ドイツで宝飾デザイナーとして活躍している妹の茉莉とは対照的に異なる世界で生きているため、千花は密かに妹に嫉妬を抱いている面もあります。

久野容子(ようこ)

口下手で誤解されやすい性格の主婦です。一俊という長男がいて、第二子を望んでいますが、夫とはセックスレスの状態にあります。パートナーとの関係に悩みを抱えながらも息子の子育てに向き合っています。

江田かおり(マダム)

繭子と同じマンションに暮らす裕福な主婦で、繭子からは「マダム」と呼ばれています。一見華やかな生活を送っているように見えますが、実は夫以外の男性と不倫関係にあります。娘の衿香を育てており、かつては出版社に勤めていたキャリアウーマンでもあります。


『森に眠る魚』は社会の縮図を描く

この物語の内容は、母親たちだけでなく、会社で働いている方や社会全体にも当てはまると感じました。新しく知り合った人やコミュニティにはじめは心が踊りますが、関わりが深まるにつれて相手の嫌な面が見えてきて、次第にコミュニティが暗い森のように感じられるようになります。

例えば、仕事をする人は仕事の結果によって上下関係が決まり、主婦の方は自分の生活や子どもの教育を通じて上下関係が決まるのだと感じました。そして、それぞれ大変なのだと改めて思いました。


『森に眠る魚』感想まとめ

一見すると平凡な日常を描いた物語のようでありながら、読み進めるうちに、まるで深い森の沼に引き込まれていくような恐ろしさを感じさせる作品です。
一度読み始めると止まらなくなる面白さがありますので、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ手に取ってみてください。

オススメ度

9.5/10点

序盤は静かに始まるので大人しい印象がありますが、後半にいくにつれてもの凄いスリルがあります。私は2周したほど面白いと思いました!

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小説『#真相をお話します』レビュー|映画版と異なる4つのポイント

結城真一郎さんによる小説『#真相をお話しします』を読みました。映画版との比較や感想をご紹介します。

#真相をお話しします(新潮文庫)

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あらすじ

島育ちの仲良し小学生四人組。あの日「ゆーちゅーばー」になることを夢見た僕らの末路は……(『#拡散希望』)。マッチングアプリでパパ活。リモート飲み会と三角関係。中学受験と家庭教師。精子提供と殺人鬼。日常に潜む「何かがおかしい」。その違和感にあなたは気づくことができるか。新時代のミステリの旗手による、どんでん返しの五連撃。日本推理作家協会賞受賞作を含む傑作短編集。(解説・村上貴史)

Amazonより引用


感想

映画を観て原作が気になったので、小説版を読んでみました。

構成の違い

映画ではYouTuberの登場人物が作品全体の回し役として一つの物語にまとめられていましたが、小説版はまったく異なる5編の短編集になっています。

トリックの完成度

短編ごとにトリックの完成度に差ががあると感じました。

映画版よりさらに複雑で巧妙だと感じたのは、YouTuberの話、三角関係の話、そして家庭教師のエピソードです。

一方、マッチングアプリでのパパ活エピソードは、映画版の方がキャラクターが立っていて面白かったと思います。

精子提供のエピソード

オチがやや予想できてしまったため、テーマ性も含めて「映画版には入らなかったのかな」と感じました。

ラストのYouTuberの話

やはり最後のYouTuberの話が圧倒的に面白かったです。真相のエグさもさることながら、登場する子供たちの関係性が絶妙で、非常に読み応えがありました。


今度は、この著者の長編にもぜひ挑戦してみたいと思います。

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【読書感想】『ブレイクニュース』|YouTubeニュース配信者が報道のあり方を問う物語【薬丸岳】

薬丸岳さんによる小説『ブレイクニュース』を読みました。

本作は、YouTubeでニュースチャンネルを運営する主人公・野依美鈴の活躍を描いた物語です。

感想をご紹介します。

ブレイクニュース (集英社文庫)

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面白かった点

  • 謎めいた主人公
    序盤から野依美鈴の過去や目的がほのめかされており、読者の関心を引きつけます。
  • 大手メディアとの対比
    週刊誌など既存の大手メディアと自由度の高いYouTubeニュースとの対比が鮮やかに描かれています。
  • 練られた伏線回収
    オムニバス形式で進行する各エピソードの中、最終章の「医療過誤」エピソードは序盤の小さな示唆がすべてつながり、読み応えがあります。
  • 魅力的な仲間たち
    社会的に弱い立場に置かれた人々を次々とチームに迎え入れ、その絆が深まっていく展開が心地よいです。

気になった点

  • YouTuber描写の古さ
    一昔前の「炎上してなんぼ」という感覚が残っており、現在のプラットフォーム運営(BAN規制やコミュニティガイドラインなど)を反映し切れていない印象があります。
  • 配信形式の不明瞭さ
    本作では「ライブ配信なのか編集動画なのか」が明示されておらず、どのようにニュースを配信しているのか把握しづらいです。
  • 展開のおとなしさ
    現実の暴露系YouTubeでは思いもよらない急展開が起こることが多いですが、本作は比較的穏やかなストーリー運びにとどまっています。

オススメ度

7.3点(10点満点中)

YouTube運営やニュース報道に興味がある方には特におすすめの一冊です。既存メディアとの対比や、人と人とのつながりを重視した物語をお楽しみください。

ブレイクニュース (集英社文庫)

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【読書感想】『バリ山行』|危険なのは山か社会か―バリエーションルートに魅せられた山男を描く【松永K三蔵】

松永K三蔵さんによる芥川賞受賞小説『バリ山行』を読みました。感想をご紹介します。

本作は、“バリエーションルート”、通称「バリ」と呼ばれる、登山道として整備されていないルートに挑む主人公を描いた物語です。建設会社勤めの平凡なサラリーマンが次第に山の魅力に囚われ、登山にのめり込んでいく姿に引き込まれます。

魅力的だったポイント

山と町、どちらが危険か?

作中では主人公が仕事と山の危険性を比較する場面があり、読者に「どちらがより大きなリスクをはらんでいるのか」と問いかけます。職場の人間関係や仕事、家族からのプレッシャーと、山の自然環境が見せる脅威とを対比させる演出が深く考えさせられました。

不気味な山の先輩の存在感

バリ登山の先輩・妻鹿(めが)の描写が秀逸です。彼の私生活には謎が多く、言動の端々から漂う不穏さが物語全体に緊張感を与えています。

リアリティあふれる下山後の描写

下山直後、自宅で泥まみれの服を脱ぎ捨て、洗濯かごに放り込むシーンなどは、一字一句にまでこだわった筆致によって、汗や土の匂いを感じる描写になっていました。その臨場感に圧倒されました。

山に魅せられる心情の共感性

山登りの中毒性や、自然がもたらす開放感、達成感がリアルに伝わってきます。登山に夢中になる人の気持ちが手に取るようにわかり、共感を誘います。

令和版『孤高の人』の趣

山岳小説の名作『孤高の人』を思わせるストイックな雰囲気が漂いつつも、現代的な視点や家族との関係性が加わっている点が新鮮でした。

気になった点

家族の描写が物足りない

主人公を支える妻や家族の描写がそれほど深くないため、山に出かける際の背後にある感情的な葛藤や支え合いが感じづらく、物語における家族の重要性が薄く感じられました。

妻の設定にやや都合を感じる

主人公の妻は働きながら子育てをこなし、夫の山行をあまり咎めない寛容さを見せます。しかし、その寛大さが物語を進めるうえでの便宜的な設定にも思え、もう少し深い掘り下げがあっても良かったと感じます。

おすすめ度

8.0点(10点満点中)

全体を通して長すぎず、一気読みしやすいボリュームです。

自然描写や登山のリアルさをじっくり味わいたい方、身近に登山好きがいる方には特におすすめ。山の魅力と、人間社会でのドラマが複雑に交錯する一冊です。

Header: Marjon BestemanによるPixabayからの画像