【読書感想】「リバース」湊かなえ|もう戻れない時間に気づかされる物語【ミステリー】

湊かなえの小説「リバース」を読みました。感想を簡単にご紹介します。

小説「リバース」のあらすじ

深瀬和久は平凡なサラリーマン。唯一の趣味は、美味しいコーヒーを淹れる事だ。そんな深瀬が自宅以外でリラックスできる場所といえば、自宅近所にあるクローバーコーヒーだった。ある日、深瀬はそこで、越智美穂子という女性と出会う。その後何度か店で会ううちに、付き合うようになる。淡々とした日々が急に華やぎはじめ、未来のことも考え始めた矢先、美穂子にある告発文が届く。そこには「深瀬和久は人殺しだ」と書かれていた――。何のことかと詰め寄る美穂子。深瀬には、人には隠していたある“闇”があった。それをついに明かさねばならない時が来てしまったのかと、懊悩する。
引用:Amazonより

主な登場人物

  • 深瀬和久(ふかせ かずひさ):本作の主人公。事務機器メーカーの営業職。趣味はコーヒー。
  • 越智美穂子(おち みほこ):深瀬の恋人。
  • 広沢由樹(ひろさわ よしき):深瀬の大学時代のゼミ仲間で親友。そばアレルギー。
  • 浅見康介(あさみ こうすけ):深瀬の大学時代のゼミ仲間。高校教師。
  • 村井隆明(むらい たかあき):深瀬の大学時代のゼミ仲間。父親が県議会議員。
  • 谷原康生(たにはら やすお):深瀬の大学時代のゼミ仲間。商社勤務。

感想

時間を巻き戻す構成の魅力

冒頭の事件から時間を巻き戻すように展開するストーリーが印象的でした。物語が進むにつれて、登場人物の印象が変わっていくのも面白いポイントです。

コーヒーが物語に与える影響

主人公がコーヒー好きという設定で、物語の要所にコーヒーの描写が出てくるため、私もコーヒー好きとして、物語の世界に入り込みやすかったです。

人間関係の深さと新しい発見

また、事件で亡くなった主人公の友人やその大切な人について知っていく過程を通じて、身近な人であっても全てを知っているわけではなく、亡くなってから新しい面を知ることがある――そんな現実のプロセスが描かれていると感じました。

後悔と時間の不可逆性

知るほどに「もっとああしておけばよかった」と後悔してしまうことも多いですが、この物語は、時間が巻き戻せそうで巻き戻せないという現実を教えてくれます。

満足度

75点/100点満点中

一度読んだだけでは最後のトリックがしっかりと理解できず、解説サイトを読んでようやく納得しました。理解した瞬間は『おお!』と感嘆してしまいました。

リバース (講談社文庫 み 67-1)

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【読書感想】「シャドウ」道尾秀介|緻密に編み込まれた謎と衝撃の展開に圧倒される一冊!—あらすじ、登場人物、感想など 【ミステリー】

今回は、道尾秀介さんのミステリー小説「シャドウ」を読んだ感想をお届けします。

2つの家族に絡む事件と精神医療をテーマにした物語で、その重厚さとスリル満点の展開が魅力的な一冊でした。

あらすじ

人は、死んだらどうなるの?――いなくなるのよ――いなくなって、どうなるの?――いなくなって、それだけなの――。その会話から三年後、凰介の母は病死した。父と二人だけの生活が始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが……。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは? いま最も注目される俊英が放つ、巧緻に描かれた傑作。第七回本格ミステリ大賞受賞作。
引用:Amazon.co.jp: シャドウ (創元推理文庫) 電子書籍: 道尾 秀介: Kindleストア

主な登場人物

  • 我茂 凰介(がも おうすけ):小学5年生。我茂洋一郎の息子。
  • 我茂 洋一郎(がも よういちろう):凰介の父。44歳。相模野医科大学病院に勤務している。
  • 我茂 咲江(がも さきえ):洋一郎の妻、凰介の母。スクールカウンセラー。
  • 水城 徹(みずしろ とおる):洋一郎の大学時代からの同級生。相模野医科大学研究員。
  • 水城 恵(みずしろ めぐみ):徹の妻。保険のセールスレディ。
  • 水城 亜紀(みずしろ あき):水城夫妻の娘。小学5年生。凰介と同じ小学校に通う幼馴染。
  • 田地 宗平(たじ そうへい):洋一郎と水城の大学時代の恩師。当時は医学部長を務めていた。現在は相模野医科大学で講師や、大学病院で精神科の非常勤医として働いている。
  • 竹内 絵美(たけうち えみ):洋一郎と水城の大学時代の同級生。現在は相模野医科大学の精神科医。

不穏な序盤|全員が怪しく見える登場人物たち

物語は序盤から登場人物全員が何かを隠しているような雰囲気が漂い、誰もが怪しく見えるような伏線が張られています。

このため、読んでいると「誰が主人公なんだろう?」とすら思ってしまうほどです。次々と明かされる謎に惹きつけられて、ページをめくる手が止まりません。

解明パートで明かされる真実|伏線が一気に回収される後半

後半に入ると、いよいよ事件解明のパートに突入。

これまで張り巡らされてきた伏線が次々と回収されていきますが、この部分にはかなりのボリュームが割かれており、一つひとつの謎が丁寧に解かれていく様子にぐいぐいと引き込まれました。

さらに、真犯人を巡って物語が二転三転するため、予測がつかずドキドキの連続です。

衝撃のクライマックスと深い余韻

結末は殺伐とした事件の中にも心を動かされるシーンがあり、単なるミステリー以上の感動が味わえました。

そして、真犯人がかなり非道な悪者として描かれていたのも印象的です。

普段読んでいるミステリーでは、悪役にもどこか共感や同情の余地があることが多いですが、ここまで完全に“悪”として描かれているのは新鮮で驚きました。

まとめ|スリルを求める方におすすめの一冊

「シャドウ」は、スリリングで手に汗握る展開が好きな方、また緻密に張り巡らされた伏線が回収されていく過程を楽しみたい方に、ぜひおすすめしたい一冊です!

満足度

90点/100点満点中

シャドウ (創元推理文庫)

[読書感想]『テスカトリポカ』|ノワールの傑作、アステカ神話と麻薬密売人の壮絶な物語

佐藤究による小説「テスカトリポカ」を読みました。

最高のノワールで、人を選ぶ作品ではありますが、個人的には大好きな作品でした!
アステカの神を信仰するメキシコの麻薬密売人が、日本で恐るべきシノギを手掛ける物語です。

前半はキャラクター紹介のような感じで、シーンが飛んだり、聞き慣れないカタカナだらけのアステカ神話の説明が続くため、少し入りづらい部分もありましたが、後半、悪人たちが集結して日本でビジネスを始めた頃から面白さが加速していき、最後まで止まらずに一気に読んでしまいました。

私はNetflixで「ナルコス」という麻薬密売人のドラマが好きだったので、メキシコの麻薬組織の名前など、本作にも共通する名前が出てきたので「おお!」と思いました。

アステカの神々についても、昔「女神転生」というゲームのシリーズが好きだったので、小説内にゲームで名前を見かけていた神々が多く登場し、興味を持って読むことができました。

こういった壮大な物語は、規模が大きくなるにつれ、最後、きれいに終わるのだろうか?と不安になることがありますが、本作はしっかりと納得できる終わり方でした。

ただ、残酷なシーンの描写は、思わず「うっ」となるくらいハードな描写なので、苦手な方にはつらいかもしれません。

アウトローな物語が好きな方にはぜひオススメしたい傑作です!

満足度

98点/100点満点中

スリリングな展開と完成度の高いストーリーでかなり満足できました!

Header: MakaluによるPixabayからの画像

[読書感想]『レイアウトは期日までに』|“ブックデザイナーあるある”がたっぷり詰まった、お仕事バディ小説〈あらすじ・登場人物・感想など〉

ブックデザイン事務所をテーマにした小説『レイアウトは期日までに』を読みました。

デザイナーの私から見てもリアルな描写で“ブックデザイナーあるある”を描いていてとても面白かったです。

ネタバレをあまりしないように、感想をご紹介します。

『レイアウトは期日までに』碧野 圭

あらすじ

職を失った赤池めぐみが就職したのは、天才、気まぐれと噂話の絶えない業界の有名人・桐生青のところだった。
憧れていた同年代のスターと一緒に仕事ができると胸がはずんだめぐみが直面したのは、机なしパソコンなし、迫りくる納期と催促の電話、修正に次ぐ修正……。
そして、大きなプロジェクトの依頼が二人に届く。
果たして、二人の仕事は? デザイン事務所と未来は?

引用:レイアウトは期日までに https://amzn.to/4gmfv0t

小説のジャンルや作者、出版年について

  • ジャンル:ブックデザイナーのお仕事紹介&人間ドラマ
  • 作者:碧野 圭
  • 出版年:2024年

本書を読もうと思った理由

私自身、装幀デザインの事務所に勤務していた経験があります。
少人数の事務所で、アートディレクターの上司の元で雑誌やブックデザインを手掛けていました。
本書のあらすじを見たときに、主人公の、めぐみと自分の経験がかなり重なる部分があったので読んでみようと思いました。

作品概要

天才装幀家の共に働く、優秀ではあるが天才ではないデザイナーである主人公の視点を通して、ブックデザイン業界で起こる出来事についてかなりリアルに描いています。

作品の設定や舞台、登場人物

序盤の登場人物

  • 赤池めぐみ:会社を解雇され、こっそり飼っていた犬が大家に見つかり家も退去させられたエディトリアルデザイナー。
  • 桐生青:正確に難アリの天才装幀家。
  • 胡桃:めぐみが飼っている犬。
  • ミケ:青が飼っている猫。
  • 山崎倫果:めぐみの友人。
  • 宇野愛子:めぐみが契約社員として勤めていた出版社、サガワ出版の上司。
  • 田中祥平:青が独立前に勤めていたデザイン事務所のボス。天才肌。田中が亡くなったために青は独立した。

序盤の作品舞台

  • 青の事務所:青が住居兼仕事場としているデザイン事務所。広めの一軒家。新大久保にある。
  • めぐみの新居:青の事務所の庭には離れがあり、そこにめぐみは引っ越した。愛犬の胡桃も一緒。
  • サガワ出版:めぐみがデザイナーとして勤めていて、解雇された中堅出版社。実用書を多く手掛ける。めぐみが退職した後も本作に登場する。
  • 田中祥平事務所:青が独立前に勤めていたデザイン事務所。青は若手ながら、ボスの右腕として自分の名前も出るほどのスターだった。

感想

天才装幀家である青が発想するデザインのアイデアは、私から見ても驚かされる(無茶な)ものが多く、心の中で「えぇっ!?」と思わされました。

めぐみは20代後半のエディトリアルデザイナー。年齢と、自分の名刺代わりになるような作品が無い事に悩んでおり、天才ではないデザイナーの悩みとして非常にリアルでした。
そんなめぐみが青から仕事を任されて、四苦八苦しながらも達成し、自信とキャリアを積んでいく描写は読んでいて応援したくなります。

天才が1人いても良い物が作れるとは限らない。編集者や印刷会社、製紙会社など、さまざまな業種の人と協業して良い本を作るという事も、描かれていて、素晴らしいです。

ストーリー展開、キャラクター、テーマ、文章スタイルなどについて

青の突拍子の無さに、読んでいる自分自身がめぐみと同様、振り回される感じが読書体験として面白かったです。
ユーモアもあって軽快な文体で読みやすい。

女性デザイナーが仕事で遭遇する嫌な経験にもしっかりと向き合って描写しており、「このような苦労もあるのか、、、!」とショックを覚えました。

良かった点、改善できると感じた点

デザインや印刷用語、ブックデザインの制作進行で良くある出来事が非常にリアリティが高い描写で描かれていて、あるある!と思いながら読みました。
しっかりと取材された事が感じられます。

反面、専門用語も多いので、デザイン業ではない方が読んでどれだけ面白いと思うかはまた未知数だと感じました。

特に印象に残った場面

当初はよそよそしかっためぐみと青の関係性が、仕事を通して深まっていく様子を非常に丁寧に描いています。

物語の最後で、青がめぐみに想いを伝えるシーンがとても良かったです。

青の出生の秘密や、2人で大きな仕事をやりきった後、信頼関係ができている事が伝わりました。
私は本書をAudibleで聴いたのですが、ナレーターの方の演技も非常に良かったです。

まとめ

ブックデザインが好きな方や、デザイン事務所で働いた経験がある方は「あるある!」の連続でかなり楽しめる作品だと思います!

決して天才ではないデザイナー、めぐみの抱える悩みや葛藤が非常にリアルで、自分とも照らしあわせて読みました。

自分がデザイナーになったばかりの頃の気持ちを思い出しました。

主人公のめぐみと青の関係性がとても良いので、続編や、メディアミックスに期待したいです。

おすすめ度

  • デザイン業界の方:95点(100点満点中)
  • お仕事物、女性のバディ物が好きな方:90点(100点満点中)

読みやすいのであらすじを読んで興味を持った方にはぜひ読んでいただきたいです。

特に印象的だったことば

「パートナー」

本書ではこの言葉が非常に多くの場面で出てきます。
めぐみと青にとってどんな意味があるのか、ぜひ読んでみてください。

本の購入リンク

レイアウトは期日までに(Kindle版)

傾向の似た作品

トッカン 特別国税徴収官(ハヤカワ文庫JA) Kindle版

日頃馴染みの無いお仕事物だとこちらのトッカンという小説も面白かったです。

滞納した税金を取り立てる特別国税徴収官という職業をテーマにした物語。

ユーモアがあって読みやすいです。

[読書感想]「成瀬は天下を取りにいく」宮島未奈|本屋大賞2024受賞!読めば読むほど成瀬が気になる“沼”小説

本屋大賞2024受賞作品!宮島未奈さんによる小説「成瀬は天下を取りにいく」を読みました。

とても面白かったので感想をご紹介します。

あらすじ

2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
2023年、最注目の新人が贈る傑作青春小説!

Amazonより引用

登場人物

  • 成瀬あかり|本作の主人公。滋賀県大津市生まれ。成瀬の魅力はぜひ本を読んでください!
  • 島崎みゆき|成瀬の親友。同じマンションに住んでいる
  • 稲枝敬太|大阪のWeb制作会社に勤務する男性
  • 吉嶺マサル|稲枝の旧友。「ときめき夏祭り」実行委員
  • 大貫かえで|膳所高校1年生。成瀬と同級生になり、振り回される
  • 西浦航一郎|広島の男子高生。全国高校かるた大会で成瀬と出会い、心惹かれる
  • 中橋結希人|西浦の幼馴染

参考:成瀬は天下を取りにいく – Wikipedia

感想

成瀬が主役ですが、どちらかというと成瀬に惹かれる人たちの視点で描かれる物語。

読めば読むほど、成瀬あかりとはどういう人物なのだろうか?と興味が出て、Audible作品で初めて2周して聴きました。

→Amazonの聴く読書「Audible」は30日間の無料体験があります。

青春加減がクドすぎず、いい意味でサッパリした物語。

正直、最初に読んだ時はあっさりとし過ぎていて、良いと言われている理由がわからなかったのですが、成瀬が気になり(小説内でも結構全貌がわからない)、読み返すうちに、この小説の世界観に居心地の良さを感じてきました。

成瀬はもちろん、周りの人物も人間らしさはありつつも、そこまでどろどろしていない描写で非常に好感が持てます。

成瀬が〇〇を持ってないという設定や、恋愛感などが特に印象に残りました。天下を取るにはこういった性格が重要なんだ、と。

現在、続編も読んでおり、こちらも非常に楽しいです。

今後はもう少し長編のエピソードも読んでみたい!

満足度

95点/100点満点中

本作単体の評価というより、成瀬あかりというキャラクターの魅力、この成瀬シリーズの今後の展開が非常に楽しみである、という期待も込めての点数です。

成瀬は天下を取りにいく