ブックデザイン事務所をテーマにした小説『レイアウトは期日までに』を読みました。

デザイナーの私から見てもリアルな描写で“ブックデザイナーあるある”を描いていてとても面白かったです。

ネタバレをあまりしないように、感想をご紹介します。

『レイアウトは期日までに』碧野 圭

あらすじ

職を失った赤池めぐみが就職したのは、天才、気まぐれと噂話の絶えない業界の有名人・桐生青のところだった。
憧れていた同年代のスターと一緒に仕事ができると胸がはずんだめぐみが直面したのは、机なしパソコンなし、迫りくる納期と催促の電話、修正に次ぐ修正……。
そして、大きなプロジェクトの依頼が二人に届く。
果たして、二人の仕事は? デザイン事務所と未来は?

引用:レイアウトは期日までに https://amzn.to/4gmfv0t

小説のジャンルや作者、出版年について

  • ジャンル:ブックデザイナーのお仕事紹介&人間ドラマ
  • 作者:碧野 圭
  • 出版年:2024年

本書を読もうと思った理由

私自身、装幀デザインの事務所に勤務していた経験があります。
少人数の事務所で、アートディレクターの上司の元で雑誌やブックデザインを手掛けていました。
本書のあらすじを見たときに、主人公の、めぐみと自分の経験がかなり重なる部分があったので読んでみようと思いました。

作品概要

天才装幀家の共に働く、優秀ではあるが天才ではないデザイナーである主人公の視点を通して、ブックデザイン業界で起こる出来事についてかなりリアルに描いています。

作品の設定や舞台、登場人物

序盤の登場人物

  • 赤池めぐみ:会社を解雇され、こっそり飼っていた犬が大家に見つかり家も退去させられたエディトリアルデザイナー。
  • 桐生青:正確に難アリの天才装幀家。
  • 胡桃:めぐみが飼っている犬。
  • ミケ:青が飼っている猫。
  • 山崎倫果:めぐみの友人。
  • 宇野愛子:めぐみが契約社員として勤めていた出版社、サガワ出版の上司。
  • 田中祥平:青が独立前に勤めていたデザイン事務所のボス。天才肌。田中が亡くなったために青は独立した。

序盤の作品舞台

  • 青の事務所:青が住居兼仕事場としているデザイン事務所。広めの一軒家。新大久保にある。
  • めぐみの新居:青の事務所の庭には離れがあり、そこにめぐみは引っ越した。愛犬の胡桃も一緒。
  • サガワ出版:めぐみがデザイナーとして勤めていて、解雇された中堅出版社。実用書を多く手掛ける。めぐみが退職した後も本作に登場する。
  • 田中祥平事務所:青が独立前に勤めていたデザイン事務所。青は若手ながら、ボスの右腕として自分の名前も出るほどのスターだった。

感想

天才装幀家である青が発想するデザインのアイデアは、私から見ても驚かされる(無茶な)ものが多く、心の中で「えぇっ!?」と思わされました。

めぐみは20代後半のエディトリアルデザイナー。年齢と、自分の名刺代わりになるような作品が無い事に悩んでおり、天才ではないデザイナーの悩みとして非常にリアルでした。
そんなめぐみが青から仕事を任されて、四苦八苦しながらも達成し、自信とキャリアを積んでいく描写は読んでいて応援したくなります。

天才が1人いても良い物が作れるとは限らない。編集者や印刷会社、製紙会社など、さまざまな業種の人と協業して良い本を作るという事も、描かれていて、素晴らしいです。

ストーリー展開、キャラクター、テーマ、文章スタイルなどについて

青の突拍子の無さに、読んでいる自分自身がめぐみと同様、振り回される感じが読書体験として面白かったです。
ユーモアもあって軽快な文体で読みやすい。

女性デザイナーが仕事で遭遇する嫌な経験にもしっかりと向き合って描写しており、「このような苦労もあるのか、、、!」とショックを覚えました。

良かった点、改善できると感じた点

デザインや印刷用語、ブックデザインの制作進行で良くある出来事が非常にリアリティが高い描写で描かれていて、あるある!と思いながら読みました。
しっかりと取材された事が感じられます。

反面、専門用語も多いので、デザイン業ではない方が読んでどれだけ面白いと思うかはまた未知数だと感じました。

特に印象に残った場面

当初はよそよそしかっためぐみと青の関係性が、仕事を通して深まっていく様子を非常に丁寧に描いています。

物語の最後で、青がめぐみに想いを伝えるシーンがとても良かったです。

青の出生の秘密や、2人で大きな仕事をやりきった後、信頼関係ができている事が伝わりました。
私は本書をAudibleで聴いたのですが、ナレーターの方の演技も非常に良かったです。

まとめ

ブックデザインが好きな方や、デザイン事務所で働いた経験がある方は「あるある!」の連続でかなり楽しめる作品だと思います!

決して天才ではないデザイナー、めぐみの抱える悩みや葛藤が非常にリアルで、自分とも照らしあわせて読みました。

自分がデザイナーになったばかりの頃の気持ちを思い出しました。

主人公のめぐみと青の関係性がとても良いので、続編や、メディアミックスに期待したいです。

おすすめ度

  • デザイン業界の方:95点(100点満点中)
  • お仕事物、女性のバディ物が好きな方:90点(100点満点中)

読みやすいのであらすじを読んで興味を持った方にはぜひ読んでいただきたいです。

特に印象的だったことば

「パートナー」

本書ではこの言葉が非常に多くの場面で出てきます。
めぐみと青にとってどんな意味があるのか、ぜひ読んでみてください。

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レイアウトは期日までに

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碧野 圭
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日頃馴染みの無いお仕事物だとこちらのトッカンという小説も面白かったです。

滞納した税金を取り立てる特別国税徴収官という職業をテーマにした物語。

ユーモアがあって読みやすいです。

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